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Ragrange Symphony × Andy Vaz

 
日本にはこれほど熱心なハウスのシーンがあるのに、そこから何かを生み出すのにこれほど時間がかかったのはなぜだろうということだね。 Adny Vaz
 

 
- まずは、皆さんそれぞれ自己紹介をお願いします。

Rondenion: Ragrange Symphonyのリーダーで、<Ragrange Records>を主宰、Ronenionとしてソロでも活動をしています。

No Milk: No Milkという名義で制作をしたり、Phononというスピーカーなども作っています。

Kez YM: Kez YMという名義でDJ、プロデューサー活動を行っていて、ハウスミュージックを軸に、いろんな音楽を制作したりプレイしたりしています。Ragrange Symphonyのメンバーの1人でもあります。

ACA3: 去年の12月にRagrange Symphonyに加入したACA3です。もともとヒップホップやテクノ、ハウスなどを聴いてきてDJとして活動してきました。

Andy Vaz: ドイツのケルンから来たAndy Vazです。もともとはミニマルテクノのレーベル<Background Records>を98年からやっていて、ディープハウスのレーベル<Yore>も2007年からやっています。

 
- Ragrange Symphony結成のきっかけが、Rondenion、No Milk、Kez YM、3名の曲がそれぞれ収録された<Yore Records>から発売されたコンピレーションEP「Tokyo Connection EP」だったそうですね?

Rondenion: もともと知り合いではあったんですけど、それまで共演する機会はなかったんです。このEPがきっかけで深く繋がった感じですね。

■Tokyo Connection EP

 

 
- 特にRondenionさんとKez YMさんは海外からのリリースも多く、日本に逆輸入されて国内でも知られるようになったところがあると思います。外国のレーベルに実力を認めてもらうことはアーティストにとってもとても励みになると思うんですが、日本人プロデューサーの作品を積極的にリリースしてきたAndyさんは、彼らの音楽をどのように評価していらっしゃいますか?

Andy Vaz: 確かに、それまでハウスミュージックにおいては日本のプロデューサーで世界的に知られている人はそれほどいなかったと思うし、少なくとも僕は知らなかったんだ。僕はまず、Kez YMのことを<4 Lux>からのリリース「Sweetly Confused EP」で知ったんだけど、彼が日本人だというのはDiscogsか何かで後で知って、それでさらに興味を持ったんだよね。日本人でこういう音楽を作っている人を知らなかったかったからさ。それで<Yore>からリリースしないか声をかけたのがきっかけだったね。
 <Background Records>でミニマルテクノを出していた頃、日本からもたくさんのデモが送られてきてた。でも、それらはほとんどがかなり実験的であまりグルーヴのある音楽ではなかったんだよ。でもKez YMの音楽はとてもグルーヴがあるハウスだったので、これはいい、ぜひ出したい、と思ったんだよね。
 

- RondenionとNo Milkはどういうきっかけでリリースすることになったんですか?

Andy Vaz: 東京に初めて来た時に、レコードをもらったことがきっかけだったんじゃないかな。Kez YMと下北沢にあるCity Country Cityというレコード屋に行って2人に会ったんだ。彼らもグルーヴィーなハウスミュージックを作っていたから、この3人で何かできないかなと考えて…。そこから、この「Tokyo Connection EP」のコンセプトは簡単に思い浮かんだんだ。盤面も日本語しか書かれていないから、ヨーロッパの人たちにはミステリアスで良かったと思うよ。

 
- Rondenionさんにとっては、こういうEPが日本からではなくドイツのレーベルで実現したことについて、嬉しい反面、フラストレーションも感じて<Ragrange Records>の設立に至ったそうですですね?

Rondenion: このEPの企画が、日本人アーティストだけの作品というのが他に類を見ないものだったから、話をもらった時はすごく嬉しかったし、出来映えも面白い作品になったんじゃないかと思って気に入っています。だからこそAndyのその審美眼には感謝してます。それ以前から、僕もKez YMもNo Milkも海外のレーベルからリリースをすることが多かったんですが、それは単純に日本にはそういうレーベルがなかったという状況があっての事だったと思うんです。海外のレーベルからこういうものが出たことは面白くはありましたが、日本からも僕たちの手でこういうことができないかなぁと考え始めたきっかけがこの作品だったのは確かですよね。それが<Ragrange Records>の設立にも繋がってという感じです。

 
- 今の意見を聞いて、Andyさんはどう思われますか?

その気持ちはよく分かるよ。エレクトロニックミュージックというのはとても国際的なもので、KraftwerkからデトロイトのJuan Atkinsまで… デトロイトの人たちはデュッセルドルフの「白人音楽」に刺激を受けてテクノを作った。確かDerrick Mayだったと思うけど、デトロイトテクノをして「George ClintonとKraftwerkがエレベーターに一緒に閉じ込められてしまったような音楽」と言っているんだ。でも、ハウスミュージックは特にアフリカンアメリカンのルーツが非常に強固な音楽なんだよね。俺も初めてアメリカをツアーしたときは、正直何をかけていいのかわからなかった。ドイツからわざわざやってきて、アメリカの音楽ばかりかけるのはバカげてるからね。でも今は、世界中の人たちがグルーヴィーなハウスミュージックを作ってるから、随分やり易くなったけどね。でも、やはりハウスの産地として知られていない場所のアーティストにとっては、聴いてもらう、認めてもらうのは中々難しいということはよくわかるんだ。
もうひとつ俺が感じるのは、日本にはこれほど熱心なハウスのシーンがあるのに、そこから何かを生み出すのにこれほど時間がかかったのはなぜだろうということだね。シリアスなレコードコレクターも多いし、みんな知識も豊富なのに…。

 
 
今はうちのお婆ちゃんでさえMacに内蔵されてるGarage Bandで簡単なループトラックくらい作れてしまうわけでしょ?音楽の作り方も変わっているし、世界への広がり方も変わっているよね。宇川直弘
 

- 私もそれは常々感じていることで、日本はレコードの市場としても、ヨーロッパ(全体)に次いで2番目に大きいと言われていますし、世界中のDJたちが日本のリスナーのハウスやディスコに関する知識の高さを絶賛します。これだけ研究熱心で素晴らしいDJも多いのに、日本産の音楽はそこまで世界に発信できてない現状がありますよね。

宇川直宏:そうなんだよ!ちょっと飛び込みで意見言わせてもらうけど、このことは根深い問題なんだよね。テクノに関しては、日本はYMOを生んだ国だし、日本産の音楽が世界に流通された歴史は長くあるんだけど、ハウスにおいては、なかなか難儀なんんだよね。ハウスをどう定義するかにもよるけど、80年代後半のシカゴ、Warehouseで生まれた音楽や、デトロイト、ニューヨークで作られていた一部の音楽が混在していた。その頃はハウスという概念の中にテクノも吸収されていたんだけど、その後細分化されて、テクノとハウスが別々の方向に成長していったと思うんだ。日本のハウスシーンは80年代からあって、例えば雨宮兄弟のEcstasy Boysが<Strictly Rhythm>から12インチをリリース(1994年)している。たしか、そのタイミングで日本にはMajor Forceが現れたんだよね。それで藤原ヒロシさんが北海道でHeytaさんのDJを聴いて作った「Hiroshi’s Dub」っていう曲があるんだけど(Tiny Panx Organization名義)…。それがロンドンやニューヨークに渡って、Major Forceが日本のダンスミュージックを担うという文脈になった。その頃はハウスやテクノは世界的に見てもアンダーグラウンドなものだったから、12インチのリリースしても内輪でしか知られることはなかったし。その一方で、小泉今日子さんみたいな人がハウスリミックスを出したりするようになったんだけど、なぜそれが世界的に広まることがなかったかというと、メジャー流通だったことが問題だったと当時僕は思っていたんだよね。でも実際には流通システムに問題があったんだ。

 
- そういう意味では、メジャー流通がほぼ崩壊してしまったことで、インディペンデントな流通網が力を持つようになったと言えますよね。特にダンスミュージックのシーンにおいては。

宇川直宏:そうそう、だから12インチが物質としての可能性を今秘めているということにみんな気づいているじゃない。ヴァイナルの価値が再度見直されてるし、海外の現場に対して名刺代わりになってきてるもんね。だから日本のアーティストは、メジャーに囲われてリリースされて、海外に流通される経路を断たれてローカルなアーティストに成り下がっていくか、もしくは海外に出て行って海外の現場に活動の場を移していくかのどちらかになっているよね。ハウスに関して言うならば、その筆頭はSatoshi Tomiieさんだよね。Frankie Knucklesの前座として東京で演奏した際に声をかけられて、「Tears」をリリースして、ニューヨークに移り住んで、日本を代表するハウスアーティストになった。もう1人忘れていはいけないのがTei Towaさん。最初は坂本龍一さんのラジオ番組「サウンドストリート」にデモを送ったりしていた人だけど、それが留学先で知り合ったMiss KierとDJ DimitryのDeee-Liteに加入してメガヒットを飛ばすようなアーティストになった。

 
- そういう意味ではSatoshi TomiieさんもTei Towaさんも、逆輸入されているんですよね。最近特に世界的にヴァイナルの復興という現象があると思うんですけど、今宇川さんがおっしゃったように、本当に名刺代わりなんですよ、12インチは。これを出していないと、名前が広まらない。逆に、1曲いい曲があればみんなが知るんですよね。

宇川直宏:でもSatoshi Tomiieさんの時代と今の違いは、彼の頃は電子音楽を作ることのハードルが今より全然高かった。今みたいにラップトップ1台で作れる時代ではなかったからね。でも、今はうちのお婆ちゃんでさえMacに内蔵されてるGarage Bandで簡単なループトラックくらい作れてしまうわけでしょ?音楽の作り方も変わっているし、世界への広がり方も変わっているよね。その分パイが多すぎて、埋もれてしまう可能性も高いけどね。

 
- 今は曲を作っている人たちが自分でレーベルも流通もインディペンデントにやる時代で、日本でもそれをやる人が増えてきましたけど、そこにやっぱり言葉の壁がまだ立ちはだかっているように感じるんですよね。でもここに居る皆さんは、特に英語が上手いというわけではないんだけど発信する努力をしている。Andyとやり取りしてレコードを出すところまでこぎ着けているし、例えばKez YM君とかは自分で全部ブッキングをやって毎年ヨーロッパツアーをやっている。そこの努力が出来るかどうかで、すごく差がつくと思うんですよね。今後は、日本のアーティストもそういうことを積極的にやっていかないといけない時代に来ているなと。そこでRondenionさんに話に戻しますが、<Ragrange Records>もそういう考えでやってらっしゃるんですよね?

Rondenion: そういう意味で、日本のアーティストは目立ててないという現実がありますよね。Andyも言っていた通り、僕たちも直接会うまで知らなかったわけですからね。確かに海外とのアクセスは楽になっているし、海外のレーベルとの仕事はやり易くなってきてますが、個人的には活動の基盤がない、足場がふわふわしているような感覚になるんですよね。それはまさに、日本のハウスシーンが沈んでしまっているからだと思うんですが。だからこそ、少しでも自分たちの足で立てるような場所を作りたいと考えて、<Ragrange Records>というレーベルを立ち上げて、足場にしたいと思ったんです。そして、それを象徴するような音を作るメンバーは誰なのかと考えて。このメンバーを集めてRagrange Symphonyとしてアルバムを作ったんですよ。

Andy Vaz: Rondenionが言うように、自信を持ってやることが重要だよね。自分が信じているものなら、日本人であろうと黒人だろうと白人だろうとユダヤ人だろうと、本当は関係ないんだ。グルーヴがあれば、出身地は関係ない。今は、その自信と熱意があれば、誰でもレコードを出して認知されることは実現できると思うしね。でももしかしたら、日本の人たちは謙虚だったりするから、アメリカのハウスアーティストを尊敬し過ぎて自分にはそこまでできないと思い込んでしまっているところもあるかもしれないよね。でも才能と努力があれば誰にでもできるんだ。ここにいる彼らが証明してくれているようにね。
 
- そういう意味も含めて、Ragrange Symphony私も今後の活躍にとても期待しているユニットなんです。国内だけではなく、海外にも日本のハウスミュージックを発信しようとしているアーティストたちだと思います。ちなみに、名前のRagrangeを私も最初「ラグレンジ」だと思っていたんですけど、「ラグランジュ」なんですよね?その意味を説明して頂けますか?

Rondenion: 天体用語で「ラグランジュポイント」というのがあるんですけど、すごく乱暴な言い方をすると重力が安定する場所ということなんです。先ほど話したように、日本のアーティストの多くが足場がなく点在しているような感覚があるので、<Ragrange Records>を立ち上げたときに、そういう人たちと関係を持って、ひとつの足場になるような存在にならないかなぁという願いを込めました。Ragrange Symphonyは、その巣から出てきたユニットなのでシンフォニーという名前をつけました。


■Ragrange Point
 
- それぞれソロで活動している4名のユニットというと、どういう役割分担で制作/ライブをしているんですか?

No Milk:RondenionとKez YMはわりとプレーヤー寄りなんですよね。だからスタジオで3人で話し合いながらだいたいの骨組みを作って、僕は「いいね!いいね!」という係(笑)。いいポイントを見つける係なんです。のってくると、勝手にいい感じのものができ上がってくるので、そのパーツをそれぞれ持ち帰って、各々でビルドアップしてそのまま完成させてしまうこともあるし、もう1回持ち寄って展開させてから完成させることもありますね。

Rondenion: みんなで一緒にスタジオに入るんで、1人では発想できないようなフレージングや、普段自分だったら使わないようなフレーズを臆することなく試せますね。そういう自分の発想にはないものをそれぞれ持ち帰って音にできるというのはすごく刺激的ですよね。そのきっかけを作ってくれたのはAndyなんで、Andyの魂もRagrange Symphonyの曲には入っていると思います!

Andy Vaz:ありがとう!

 
- 謎の4人目のメンバー、ACA3さんもアルバム制作に参加されているんですよね?その役どころは?

ACA3:僕はアルバムの中では僕の曲は3曲収録されているんですが、他の3人と一緒に作ったわけではなくて、素材をもらって勝手にダブヴァージョンを作って行ったら、Rondenionが「リリースしよう」と言ってくれて、それで収録された感じです。

Rondenion:彼とはもともと知り合いだったんですが、作品はいつも聴かせてもらっていたんですよ。ちょうどRagrange Symphonyのアルバム制作時にそれにフィットするような音を作ってきてくれていたので、だったら入ってもらおうということになったんです。Ragrange Symphonyは、先ほども言ったようにいろんなアーティストが集える場にしたいんです。ですから、もともとのメンバーは3人なんですけど、そこから何人入ってきてもらっても構わないんですよね。

Andy Vaz:僕も入ろうかなぁ(笑)。

Rondenion:では後でメンバーリスト渡すのでサインして下さい(笑)。Ragrange Symphonyは普段ストイックな作品を作ってるメンバーが、基本的には肩の力を抜いて作った作品、ちょっと笑えるくらいのものを作っていこうという考えなので。

 
- 確かに、少しユーモラスですよね。ライブはどういう風にやっているんでしょう?楽器も多いようですが。楽譜のようなものがあるんですか?それともインプロが多いんでしょうか?

宇川直宏:そして、絶対音感はあるんですか!?

Rondenion:僕は絶対音感はないですが、相対音感はあるので、基本的に音は聴き取れますね。

No Milk:全体的にインプロの割合が多いですね。スタジオでジャムをして生まれた曲もライブではやろうということになってます。正直、何が出て来るかは、僕らも分かってないですね(笑)。
 


- では、アルバム収録曲の再現だけではない、ということですね?

No Milk:そうですね。それは全体のほんの一部です。
 

- それでは、最後にお一人ずつ今後の予定や告知をお願いします。

Andy Vaz:それほどたくさん予定はないんですが、ドイツの新しいレーベルから2枚レコードが出る予定。クラシックなアシッドハウス曲だね。Andreas Gというケルンで近所に住んでいる友人とのコラボレーションもあって、彼もアシッドハウス好きで俺もRoland TB-303を持っているから、一緒にスタジオに入って作った曲なんだ。

ACA3:僕は2011年くらいから本格的に曲作りを始めたんですが、最近は作るのが楽しいので、とにかく家でずっと作ってます。SoundCloudとかで発信していっているので、世界に音楽仲間を作っていけたらと思ってます。

Kez YM:<Ragrange Records>から、かつてNo MilkがやっていたRhapsody Recordsというレーベルから出ていた音源を僕とRondenionとStereocitiの3人でリミックスしたEPが近々出ます。いい仕上がりになっていると思うので、ぜひチェックしてもらいたいです。DJも各所でやっているんで、都合が合う日があればぜひ聴きにきて下さい。

Rondenion:<Ragrange Records>からは、Kez君が今言ってくれたようにNo Milkのレコードが出ます。ACA3についても、今後レコーディングを本格的にしていければなと思っています。あと、アメリカの<Roundabout Sounds>というレーベルから、僕のソロ名義のEPがぼちぼち出ますので、そちらもチェックしてみて下さい。

No Milk:既に言ってくれたように、前にやっていたRhapsody Recordsの作品の2014年版、みたいなリミックス盤が出ます。あと、Phononというオーディオブランドをやっているんですけど、Kamomeというカモメのような形をしたスピーカーを開発しました。詳しくはPhononのホームページを見てみてください。あと、クラブミュージックとは別に、Afri Californiaというバンドと一緒に<Joyfun>というレーベルも立ち上げたんで、そちらも是非チェックしてみてください。
 

Ragrange Symphony ライブスケジュール:
5月31日  TAICOCLUB’14@信州やぶはら高原こだまの森
http://taicoclub.com/14/
(6/1の7:10AMより特設ステージにて登場予定)

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