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KEN ISHII 13年ぶりとなるニューアルバム『Möbius Strip』に懸ける想いを語る

インタビュー:小野島大

ベルギーの名門テクノレーベル「R&S Records」からデビューし、1995年にリリースしたアルバム『Jelly Tones』(R&S/SONY)が大ヒットを記録。日本のクラブシーン黎明期から世界で活躍する東洋のテクノゴッド、KEN ISHIIが13年ぶりとなるオリジナル・アルバム『Möbius Strip(メビウス・ストリップ)』をリリースする。当インタビューでは、KEN ISHIIがニューアルバムに懸ける強い想いや、その背景、制作過程について語った。



――KEN ISHII名義としては13年ぶりのアルバムですね。

EPとして出したり、FLARE名義で出したりしてたんですけど、オリジナルのKEN ISHIIアルバムというのは知らぬ内にそんなに時間が経ってしまいましたね。

KEN ISHII - Bells of New Life

――何故そんなに時間がかかったんですか。

作るのに時間がかかったというか、出すことに時間がかかったという感じですね。アルバムを出すってことは、ただ単に曲を出すというよりは、自分のアーティストとしての存在証明的な部分が結構あると思うんです。あるいはクリエイティヴィティ全体のイメージを見せるというか。ただいっぱい曲ができたので出していきますっていうのは違うと思って。ヴィジュアルひとつ取っても、あるいは映像でもいいんですけど、まとめてちゃんと発表できる場が欲しかった。EPだけ出していてもそんなに(インタビューなどで)語る機会ってないと思うんですよね。EPだけでもやってるなこのアーティスト、っていう風には見えると思うんですけど。アルバムがあると、自分が考えていること、音楽に対する気持ちとか気分もしっかり話せる。だからしっかりアルバムとして出せる機会は必要だと思うんです。その場が全部揃うまでに、ある程度時間かかったっていう感じですね。

――アルバムとして表現すべきものがどういうものなのか、考えるのに時間がかかった?

テクノも結構いろいろと細かい中でトレンドが変化していったりしていて、そういう中で最終的には自分はこれだ、次まとめて出すとしたらこれだ、っていうひとつの結論が出るまでに結構時間がかかりました。それがある程度できて、曲もある程度できてきた中で、音楽以外の部分も含めてしっかり出せる機会が得られるまで時間がかかったということです。

――前にFLAREのアルバムを出した時(『Leaps』2016年)よりも、さらにテクノの新譜アルバムって少なくなっているじゃないですか。

そうそうそう。

――言ってみればテクノのアルバムを出す意義みたいなものがそこで問われているし、また同時に商業的にもなかなか出せない状況もある。そこら辺の状況の変化も感じますか。

それはもちろん。周りがそういうムードになってないから、聴くほうもアルバムを聴こうっていう人たちが少なくなっているのかもしれない。アルバムを出す意味がなくなっている、アルバムを出す必要がなくなってきているっていう。それは新譜の数がそのまま示している通りだと思うんです。だんだんアルバムを出す感覚がなくなってきて、逆に言えばアルバムを出さなくても活動は続けていけるという状況がある。だからある意味アルバムを出すっていうのは、テクノ・アーティストにとっても、レーベルやレコード会社にとっても、敢えてやるぞっていう意気込みみたいなものが必要になってきていると。それを持っているアーティストやレーベルだけがしっかり出している状況だと思います。

――前作後にKEN ISHII名義で出しているシングルやEPだけでかなりの数があるわけですが、それはアルバムには結びつかないわけですか?

自分で出しているFLAREは別として、いろんなレーベルから出ているものは、やっぱりダンス・レーベルであり、テクノ・レーベルであり、DJがプレイするためのトラックだったりするので、基本的にはEP単位、シングル単位でしかレーベル側も考えてない。買う側もテクノとかダンス・ミュージックのコアなファンやDJがメインであって、アルバムっていうものは欲してない。アルバム10曲あっても、その中で1曲だけ買えばいいっていう風に完全になってきちゃっているので。なのでそういう意味では、そういうものだと思って曲も作っているんですよ。

――なるほど。

これだけいろんなレーベルが数え切れないくらいある中で、ほとんどのレーベルがひとりのアーティストをじっくり押していくわけじゃなくて、たまたまヒットすれば同じアーティストの似たようなスタイルで行く場合もあるけど、トレンドが変わったと同時に違うアーティストをプッシュしたりもしている。<DRUMCODE>(アダム・ベイヤーが主宰するスウェーデンのレーベル)にしても、一番大きいテクノ・レーベルかもしれないけど、あそこもアルバムなんてほとんど出してない。一番大きなレーベルがそういうスタイルでやっているわけだから。

――出す場がなくなってきている。

アーティストとしても、リスナーとしても、レーベルとしてもアルバムっていう考えがもうほとんど消えているってことだからね。でも僕みたくオールド・スクールな人間は、まだアルバムを出してしっかりやりたいっていう頭があるから、なんか自分の中でふたつに分けている感じ。いわゆるDJトラックを作っていろんなレーベルからEP出している頭と、しっかりとアルバムを作ってアーティスト性全体でアピールしたいなと思っている頭のふたつ。活動内容も違う感じがありますよね。

――なるほど。今回のアルバムの構想はいつ頃、どんな形で?

これで行こうと自分の中で固まってきたのが3年くらい前。他のレーベルで横の繋がりで出しているEPはリクエストに応じて、その時のテクノのトレンドにちょっと寄せて出したりしていたんだけど、そういう流れとは関係なく、自分で好きに作っていたものの中で、まとめて出したいのはやっぱりこれだな、っていうのが3年前くらいに決まりました。

――それはどういうものだったんですか。

何かカラフルな響きがするというかね。たぶん今の若いファンが思い浮かべるテクノって、ダークでビートがしっかりしているもの。音数の問題でもないんですけど、いわゆるシンセっぽい感じでスタイルが大体決まっていると思うんです。それ以外はテクノじゃないというかね。そこに多少メロディなりファンキーな要素が入ってくると「これはテクノじゃないね」って言う人が、結構若いファンには多いんです。だけど僕みたいにYMOとかクラフトワークに最初に感化されて、デトロイト・テクノみたいなものでスタイルが決まった人間からすると、もうちょっとファンキーさというか、豊かな色を入れていきたいなと思うんですね。紺とかグレーみたいな似たような感じの音ばっかりじゃなくて、グリーンとか赤とか黄色も入れたいなっていう。

――そうした変化は、国内外、特にヨーロッパでプレイしていると感じるんですか?

すごく感じます。国内のクラブ・シーンは別として、今ヨーロッパとかアメリカでは若い人中心にテクノがすごくクールでヒップなものになってきている感じがあるんです。でもそういうイベントだと、彼らが普段聴いているスタイルじゃないものがかかると急に踊らなくなったりするんですよね。だからDJも10人いたら8人くらいはほぼ似たような感じになる。僕は少しは自分しかない要素を入れていきたいって思うんですけど、「あれ? 思ったよりリアクションが来ないな……」って感じることも多い。特にフェスティバルとか大きいイベントになればなる程そういう傾向は強いかなと思います。本当に一本調子で行くほうがみんな好きっていう。

――それはやり辛いですね。

今のトレンドで出てきたアーティストやDJはいいと思うんだけど、長くやっている人間は、いろいろ知っている分いろいろ混ぜたいって思うわけですよ。でも、そういうのよりは、トレンドに合わせてガンガン行くほうがクラブ・シーンでは求められている感じがしますね

――アルバムに関しては、今のクラブでの流行とかトレンドみたいなものは排除していこうという方向になる?

そうですね。トレンドとやりたいことが、たまたま合っているアーティストだといいのかもしれないですけどね。自分の場合はもちろんある程度両方できる自負はある。でもアルバムって自分の中で特別なものだから。トレンドとは関係なく、ずっと聴いてもらいたいなと思うから、そういう意味ではトレンドに寄せる必要はないと思います。特に今回は、胸張って作りたいものをシンプルに作っただけです、って言い切れるものをやりたかったんですね。
久しぶりのオリジナル・アルバムってことになると、場合によってはあれも入れよう、これも入れようとか、何か目立つ話題のものを入れ込もうっていう話にもなったかもしれないけど、自分の中では、久しぶりだからこそ本当に「これが自分のやっていることだ」とハッキリ言えるようなものにしたいと思いました。「このアルバムのためだけにとりあえずやりました」っていうものはナシにしようと思って。コラボレーションにしても、本当に自分が音楽的にやりたいものとか、個人的にこの人とだったらやりたいっていう気持ちだけでやっている。飛び道具としてやっているわけではないですね。

――今回マスタリングはまりん(砂原良徳)ですね。

まりん君がすごくいいのは、彼はDJとしてもたまに一緒になるんですけど、クラブで大きく鳴らした時の鳴りがどうかっていうことも知っているし、普通のポップスもマスタリングでやっていたりするし、テクノから出てきた人だから当然エレクトロニックの音の処理も知っているので、そういう意味では一番適任だったんじゃないかなって気がします。

――また今回は2曲でジェフ・ミルズとやってますね。「Take No Prisoners」というミニマル・テクノと、「Quantum Teleportation」というスペイシーなアンビエント曲です。

ジェフ・ミルズの場合は、コンセプトにすごくこだわる人なんです。個人的に彼とは日本に来た時には食事に行ったり話しをしたりとか、長年普通に先輩・後輩関係を続けていたんです。ジェントルな感じの。で、今回遂に(制作で)お願いできますかって言ったら、「わかった。でも、コンセプトは何かな?」っていうところからのスタートで。

――(笑)わかる気がします。

アルバムのコンセプトとか、曲のコンセプトを聞かれて、どういうものを作りたいかっていうことを最初にやり取りした上で、しばらく経って今こういうパーツがあるけどどうする?っていうやりとりをする。そういう感じですね。ジェフに関しては、いわゆるミュージシャンっぽいノリ、いいね! 気分いいね! じゃあ一緒に何かやろうよ!っていうのは通用しないんですよ。



――あははははは! すごくわかります。あとは「Green Flash」という叙情的なドリーミーな曲を、スペインのDOSEMと一緒にやってますね。

Technasiaのレーベルから「凄い若手が出てきた」って随分前に言われて。それが10年くらい前なんですけど、その時からいいと思ってずっと聴いていて。デトロイト・テクノに影響を受けつつも、今のシーンにアップデートしたいい曲を作るタイプで。メロディアスであり、ファンキーでもある。いろんなイベントで一緒になるようになって話をしてみたら、実は凄く僕に影響を受けたって言っていて。西欧人にしては珍しく凄くリスペクトがあって礼儀正しい。僕の日本的な感じが凄く好きだと言ってくれて。それで会う度に仲よくしていて、いつか頼みたいなと思っていましたね。彼のテイストもほしいし。



――そういう風にKEN ISHIIに影響を受けた人、世界中にいっぱいるんじゃないですか。

いっぱいいるかはわからないですけど、ジャケットのイラストをやってくれたハンガリーのNikonOneっていうイラストレーターもそうだし、“Bells Of New Life”のビデオを作ってくれた児玉祐一監督とか、アートワークをやってくれた山下さんっていうデザイナーの人もそうなんですけど。やっぱり昔から付き合いがあったりとか、自分の作品を気に入ってくれてる人たちと一緒に作ると、すごく熱や愛を感じます。そこはすごく嬉しいことですよね。

――長年やってきたご褒美みたいな。

今回その感じはすごくしました。さっきも言った通り、自分としては好きなようにやってきただけなんだけど、みんなにそういうふうに聴いてもらっていたのかと、今回プロジェクトが形になる過程で改めて気付かされて。

――俺にも手伝わせろみたいな?

本当にそういう感じで。それはやっていて嬉しかったです。

ーー「Silent Disorder」というエクスペリメンタルな曲を一緒にやっているGo Hiyama(日山豪)はどういう経緯で?

彼は昔はハード・テクノをやっていて、当時から僕も彼のレコードをプレイしていたり、その頃から顔見知りだったんですけど。ここ最近は彼はどちらかと言うとアートの方面で実験的な音楽をやっていて、その作品がすごく好きだったんです。テクノでも普通のテクノは全然作んない。一味も二味も違ったテクノしか作らなくて、聴いていて「こういう曲を自分でも作りたいな」と思ったりして。自分が90年代に出てきた時の「そもそもこういう音楽作ってみたかったんだよな」っていう感覚が、彼の音楽を聴いていると湧いてくるんです。もちろん、今の彼にしかできない音をやっているんですけど、そういう実験性は自分ももっと持ってたよな、って思い出させてくれる存在なんですよね。

ーーなるほどね。

さっきもチラっと言ったように、エレクトロニックなテクノだったら自分の中でこうしたらこういう音が出るだろうってわかるんですけど、彼の音楽はあんまりわからないんですよね。自分が持ってないものを持っている感じがしたので、彼には是非参加してもらって、テイストをインプットしてもらいたいと思いました。

ーーほかにボーナストラックとして収録される、パックマンの40周年記念のテーマ曲とかバラエティに富んでいて、いろんな側面から語ることができる。こういう広がりがあって多面性のあるテクノ・アルバムは最近なかなかないなと思います。

ありがとうございます。アルバムをやるのであればここまで膨らませたいっていうイメージがあったので。このアルバムでやれてよかったです。いろんなことをやっていても、どこまで行ってもこれが自分だと言い切れると思います。

JOIN THE PAC (Official Theme Song for PAC-MAN 40th Anniversary)



KEN ISHII『Möbius Strip』(メビウス・ストリップ)
2019年11月27日リリース

【完全生産限定盤 Type A】
7インチサイズハードカバー仕様
[CD/CD-EXTRA/7inch Clear Vinyl] 3枚組 折込ポスター付
UMA-9130~9132 定価 ¥4,600+税
[全世界1,000セット限定]

【完全生産限定盤 Type B】
7インチサイズハードカバー仕様
[CD/CD-EXTRA] 2枚組 折込ポスター付
UMA-8130~8131 定価 ¥3,300+税
[全世界1,000セット限定]


[収録曲]
*Type A, B共通*
DISC 1
<CD>
1.Bells of New Life
2.Chaos Theory
3.Take No Prisoners (Album Mix) with Jeff Mills
4.Vector 1
5.Green Flash (Album Mix) with DOSEM
6.Silent Disorder with Go Hiyama
7.Prism
8.Vector 2
9.Skew Lines
10.Polygraph
11.Quantum Teleportation with Jeff Mills
12.Vector 3
13.Like A Star At Dawn

<CD-EXTRA>
JOIN THE PAC (Official Theme Song for PAC-MAN 40th Anniverary : Club Mix)
Bells of New Life MV & 25周年スペシャルインタビュー映像
KI Möbius Strip オリジナルフォント(Mac,Windows,Unix対応 OpenType PS)

*Type Aのみ*
<7inch Clear Vinyl>
A side / EXTRA ('95 Original Video Edit Rematered)
AA side / JOIN THE PAC (7” Version)

アルバム特設サイト
http://www.umaa.net/KI/




KEN ISHII 


アーティスト、DJ、プロデューサー、リミキサーとして幅広く活動し、1年の半分近い時間をヨーロッパ、アジア、北/南アメリカ、オセアニア等、海外でのDJで過ごす。‘93年、ベルギーのレーベル「R&S」からデビュー。イギリス音楽誌「NME」のテクノチャートでNo.1を獲得、’96年には「JellyTones」からのシングル「Extra」のビデオクリップ(映画「AKIRA」の作画監督/森本晃司監督作品)が、イギリスの“MTV DANCE VIDEO OF THE YEAR”を受賞。’98年、長野オリンピック・テーマインターナショナル版を作曲し、世界70カ国以上でオンエア。2000年アメリカのニュース週刊誌「Newsweek」で表紙を飾る。’04年、スペイン・イビサ島で開催の“DJ AWARDS”でBEST TECHNO DJを受賞し、名実共に世界一を獲得。’05年には「愛・地球博」で政府が主催する瀬戸日本館の音楽を担当。一昨年はNINTENDO SWITCH Presentationに出演。全世界配信され、数百万人の人達がDJ PLAYを目の当たりにした。更にはベルギーで行われている世界最高峰のビッグフェスティバル「Tomorrowland」に出演も果たす。今年2019年、オリジナル・アルバムとしては前作より13年振りとなる『Möbius Strip』をリリースする。
 
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