INTERVIEWS
バナーバナー

Ananda Project

永遠のハウスアンセム「Cascade Of Color」や「Kiss Kiss Kiss」で知られるヴォーカルハウスの匠、Ananda Project。Ananda Projectの通算10作目となるアニバーサリーアルバム「LOVE IS DEEP」が完成し、4月22日にリリースされる。南アフリカで制作された本作。今までのAnanda Projectでもあり、そうでないようにも思える新鮮な作品だ。南アフリカという土地が彼のクリエイティビティーにどのような影響を与えたのだろうか?

Interview:Ken Hidaka
 

 

 

 
- 私にとってAnanda Projectとは、常に音楽と自然の中の美しさの探求なんだ。音色と歌詞でどのようにそれを表現出来るかを探るのが、未だににAnanda Projectの根源的なコンセプトなんだ。 -

 

 

 

 
- 新作を制作した経緯を教えて下さい。

経緯か。。。ちょっと考えさせてもらっていいかな。なぜなら、物事って時には自発的に起きるけど、それがどう起きたのかあまり深く深究しなくて、突如と生じるからね。本作はどちらかというと、そんな衝動から産まれたんだ。私はただ自分にとってごく自然に、新作を制作していただけで、完成された作品そのものがそのプロセスから明るみになった。言わんとしている事が分かってくれるかな?

 

 

 

 

- という事は、「さて新作アルバムをこれから作ろう」と決め、その発想の元に収録楽曲を制作し始めたのでしょうか?

そうだね、自分にとって最初から特定のコンセプトを決めてアルバムを作ろうとはしなかった。アルバムを聴けば気づくかと思うけれど、実存/本質的な場から産まれてくる多くの異なった接線がまた別の方向に噴き出して行っている事に気づくと思う。まるで、この辺は実験してみよう、この箇所に飛ばそう、そしてあちらの方向に行こうぜ、というような感覚で作業を行ったんだ。だから、1つのスタイルに基づくコンセプトで本作を制作しなかった。
私自身、もうアーティストとして自分のスタイルを意識的に考えなくなったんだ。スタイルは自発的に生まれると思う。私は何かに属し、ディープ、ソウルフルや他のラベルを貼られたハウスミュージックの形態のどこかに当てはまる事を考えなくてもいい段階に今いると思う。だから、そんな事が気にならなくなったんだ。

 

 

 

- 先ほどあなたは“異なった接線に噴き出す”という事を言っていましたが、何曲かはあなたの別名義のP’Taahっぽく聴こえ、何曲はAnanda Projectっぽくないが、これは今のAnanda Projectなのだ、と思いました。

話しを少し戻すと、本作はAnanda Projectっぽさが漂っていると思うが、少し魅惑的な他の要素も含まれている。私にとってAnanda Projectとは、常に音楽と自然の中の美しさの探求なんだ。音色と歌詞でどのようにそれを表現出来るかを探るのが、未だににAnanda Projectの根源的なコンセプトなんだ。

 

 

 

- なぜこの新作を『Love Is Deep』と名付けたのでしょうか?

これは本作収録楽曲の歌詞の一部で、必ずしもマントラとは言わないが、当時自分の人生で起きた真の要となった言葉でした。幾分ありふれたものに聞こえ、愛とディープという言葉を一般的に使う表面性にも気づいていたんだけど、どうしてもこの言葉が印象に残ったんだ。一般の慣習では私が言外にほのめかしたいような強度や意味深さが不足しているかもしれないが、愛の豊かさと拡大出来る規模がすべてに秘めていると思った。このタイトルは、もし深く探求出来れば貴方は広く開放的な空間に行っているという事を表現していて、私はその自由を探そうとしている。

 

 

 

- Ananda Projectというプロジェクト名もすごく精神性の意味が含まれている名前であります。この名前は、貴方が今話した事の多くを伝えていると思います。

この名前に関して興味深い点は、自分で選んだのではなく、名前が私を選んだのさ。大昔の1990年代に誰かが推薦してくれて、何となく留まったんだ。だいぶん前から私はヒンズー教、ヴェーダ、ウパニシャッド等を学んでいた訳でもないが、自身が読んでいる書物、学んだ事、生き方をより成熟するにつれ、この名前は次第に私の中に根付き、より魅力的な名前になった。もちろん、私が知る限りアナンダと直訳する英語の言葉はないが、至福みたいな意味を持っているよ。

 

 

 

- 2011年~2012年にかけて、あなたはあらゆる名義で何枚かのアルバムを発表しました。Ananda Project名義では2枚、P’Taah名義では1枚、Chris Brann名義で1枚。そして、何年か経ちました。あなたは少し時間を空けていたのか、引き続き音楽制作を行っていたのでしょうか?

特に活動休止した訳でもないんだ。自分と音楽、社会全般と音楽業界で何が起きているのかに対する自分の関わり方、現在人々がどのように音楽を聴いて消費しているのか、こういった様々な課題を自ら再認識しようとしていたんだ。私は、自身に対して正直になる必要があった。なぜ人間として生まれ今生きているのかを問いつめ、自身の真実を生きる為に生まれて来た事を気づこうとした。他と競い合い、自身を大勢と比較し、どんな音楽を作った方がいいのかとか、他が求めるものを作らなければならないという心情に簡単に巻き込まれる事は出来るが、このような事から一端離れたくて、自我の核心に回帰する道を歩んでいた。本作の制作は自己を回帰するための1つの重要な手段だったんだ。

 

 

 

 
- タウンシップに住み育っている子供達が古い、微々たる機材と2個のスピーカーだけで音楽を作ろうとしているんだ。-

 

 

 

- 本作を最初に聴いた時、すごく新鮮に感じました。過去の作品と比べて、多少変わったような気がして、本作の鮮明さにすごく魅了されました。この作品を制作する間、あなたは南アフリカに長期滞在していたとお聞きしました。

はい、私たちは南アフリカに移住し、建てたばかりのスタジオでレコーディングする機会に恵まれた。新鮮な発想で他のアーティストと共作し始める良い推進力になって、結果的にすごく上手くいったよ。短期間で過去に南アフリカで公演を行う為に何回か南アフリカに行った事があったが、長い間あの国に住んだ事は私にとってすごく驚く経験だった。西ヨーロッパ諸国やアメリカ等の西洋の文化では見られない、多くの異なる相違を目の当たりしたんだ。

 

 

 

- どんな相違を発見しましたのでしょうか?

南アフリカは、アパルトヘイトから解放されてからまだ20年も経っていない国なんだ。国自体が真に癒されるまで数世代もかかるかと思う。心理的に国全体の意識はまだ分かれている。現地にいると多くの潜在的な葛藤が感じたよ。まるでその土地や地面にその緊張感が刷り込まれている感じだ。我々が滞在していたヨハネスバーグの地域経済の大部分は金とダイアモンドの採掘によって基づいており、貪欲な利益のために地球が利用され、あえて略奪と言わせてもらうくらい耐え難い感じだ。かなりの癒しが必要なのだと南アフリカにいる時、すごく感じた。私が思うにはこれからもっと多くの事に取り組まなければならない印象が強かったよ。

 

 

 

- どのくらい滞在したのでしょうか?

我々は1年近く滞在していて南アフリカ全土を旅行した。外国人が普段立ち入らないところも含め何カ所かでDJもしたよ。

 

 

 

- タウンシップでDJしたのでしょうか?

DJもしたし、我々は素晴しい人々と出会ったよ。最高のミュージシャンと共演する事もでき、南アフリカ国内の音楽シーンを築くのに貢献した主軸の連中とも出会い、現地のミュージシャンと交流を深めたんだ。我々が南アフリカでコラボレイト出来た1人のアーティストは、DJスーであり、彼女はソウェト出身だ。彼女は国中でDJし、もっとすごい事はDJだけではなく、ソングライターと歌手でもある。彼女はDJしながらレコーディングでも生でトラックの上で歌い出すんだ。本作の9曲目「Never Give Up」は彼女と共作した。出来具合に私は大変満足したよ。このコラボレイションはまるで共鳴する様に偶然に彼女とソウェトと出会い、2日後にはこの楽曲を共作するために彼女とスタジオ入りしたんだ。

 

 

 

- Franck Rogerが来日した時、彼はLouie Vegaと南アフリカに行き、大規模なフェスに出演した話をしてくれた。何十万人も集まるこの大きなコンファレンスに出て、この国のハウスシーンがすごいと聞かされました。

南アフリカの大勢の人々にとって、ハウスシーンは音楽の主な勢力なんだよ。我々も南アフリカでLouie Vegaと会ったよ。彼はボートクルーズから降りたばかりで、メジャーなラジオ局がスポンサーしている毎年開催されているこのイベントに出演していたんだ。Louie Vegaは南アフリカでは国民的なヒーローで、人間の中の神様のような存在なので、彼と1週間船上パーティに参加するのは至難の業みたいだったよ。

 

 

 

- アメリカと日本のハウスシーンと比較すると、南アフリカのシーンの違いは何でしょうか?

南アフリカのシーンは統一されている印象を受けたよ。アメリカは広いから、各地域に独自のシーンが育ち、各自の独特なサウンドが存在し、全国的な注目を狙い競い合っているが、南アフリカのシーンはすごく小さくて、各地域を行き来するのは簡単なんだ。地域独自のサウンドはあるが、同時にまとまっていて、より早く融合する体制が整っているかと思う。私が物すごく驚いたのは、タウンシップに住み育っている子供達が古い、微々たる機材と2個のスピーカーだけで音楽を作ろうとしているんだ。多くの若者たちは驚く早さで音楽ソフトをマスターし、速攻でトラックをつくり出している。やたらと多くの人が作ろうとしているので、小さなスタジオやガレージでどんな事をしているのかを覗くのが面白くてたまらなかったよ。彼らは作り立てのトラックを週末に開催される、近所の数百人が来るパーティで披露する。そんな心が躍る事が起きている素晴しいコミュニティなんだよ。南アフリカで始まったこのコミュニティはとてもたくましいと思うよ。また、南アフリカとアメリカを比較して、思ったのはアメリカの問題はコミュニティそのものだと思う。多くの意味で残念ながら、我々はコミュニティ精神を失っているのかもしれない。

 

 

 

- Resident Advisorの南アフリカ特集のビデオを観た時に、タウンシップのどこかの野外パーティが映っていて、観客がすごく楽しんでいる様子が観られました。また、高層ビルの屋上でパーティをしているのも見てとても驚かされました。そんな事は東京ではまずあり得ないから。

彼らは我々に真の道を見せているような気がする。現実的に可能かどうか判らないが、アメリカやヨーロッパ、日本でも昔みたいにやっていた事がまだ可能だと信じたい。彼らはただ野原にサウンドシステムを持ち運び、集まり、パーティをやろうとしている。豚肉か肉を持って来てバーベキューをやり、ビールを持って来る。それだけで娯楽になるのだ。アメリカでは、我々はテレビやハリウッドの映画を観て、何もかも与えられている状況から抜け出せず、自ら働き生み出していない。文化の根元から我々の娯楽を自ら創造するという発想に回帰する必要があるのかもしれない。

 

 

 

 
1つのアーティストのアルバムを1回のリスニングで1枚のアルバムを落ち着いて集中し、聴く事が好きなんだ。1回に1人のアーティストの作品を聴くのは純粋さがあると思う。-

 

 

 

- 本作に参加しているシンガー、アブラ、DJ スー、ベル・ベンについて話して下さい。ベル・ベンは南アフリカの歌手の1人なのでしょうか?

いいえ、ベル・ベンはデトロイト出身で、今アトランタに住んでいるシンガーだ。本作に参加しているほとんどのシンガーはアトランタから来ている。アブラもアトランタに拠点を置いているが、我々と一緒に南アフリカに行き、レコーディングと作曲作業に参加したよ。南アフリカに我々のちょっとしたアトランタ派遣団が定住していた事になるね。

 

 

 

- 何人かを連れて行き、南アフリカに行ったのですか。めったにないすごいチャンスだったのですね。

外国人のアーティストとして私は、ポール・サイモン問題について敏感だった。彼は南アフリカに行き、現地の素晴しいミュージシャンを起用しアルバムを制作した。しかし、彼は現地のミュージシャンにお金を払わなかった事や音楽的な地勢を略奪し、世界の他の地域で大儲けしたという、未だになかなか消えない噂が語り継がれている。
私たちはその手の話の多くを現地で聞かされた。私は部外者として南アフリカを訪れて、彼らに奪う人とは思われたくない。そんな事を行なうために南アフリカに行った訳でもない。私は、人間としてただ存在し、いろいろと吸収し、生き、学び、何か提供できる事があれば披露するためにいると思っていたんだ。しかし、同時に現地で特定のサウンドを取り入れようと思って行ったという事もないんだ。独特のスタイルを探していたのではなく、自分自身を探していた。
本作に参加しているテレンス・ダウンズ、ヘザー・ジョンソンとの交流は何十年も続いている。Ananda Projectにとって、彼らとの関係はとても大事だ。彼らは素晴しいソングライターであり、最高の歌声の持ち主だ。Ananda Projectを制作するに於いて、自分の本拠地であるアトランタを拠点に置いている彼らみたいなアーティストと組み込む事を大事にしている。

 

 

 

- 1曲単位のダウンロードが旺盛の時代で、あなたはなぜフルアルバムを制作し続けているのでしょうか?

昔から惹きつけられ、いつまで経ってもアルバムはフォーマットとして好きだ。私はアルバムを聴き、育った。LP(ロングプレイヤー)というフォーマットを通して、アーティストが伝えたい考えを聴き育った。私はアルバムの最初から最後まで聴き通したかった。必ずしもコンセプトアルバムではないが、私が最も気に入っているアルバムの幾つかは物語があり、音響的に1カ所から他の箇所に、一種の旅に連れて行ってくれた。ミックステープを聴きたいのと同じとも言えるかもしれない。
またもう1つ言える事は、もしあなたは1つのアーティストを気に入っているのであれば、そのアーティストの事を学ぶのが大事であり、40分、60分の時間帯でアルバムの中で何を伝えたいのか、必要とする時間と注意を費やすべきだと思うよ。我々が今回出すこのアルバムを、リスナーが全部聴き通すのかどうかはわからない。現在、人々はアルバムをフルに聴く時間があるか、集中力があるか判らないが、それが私の理想だ。私は未だにそうしている。1つのアーティストのアルバムを1回のリスニングで1枚のアルバムを落ち着いて集中し、聴く事が好きだ。1回に1人のアーティストの作品を聴くのは純粋さがあると思う。

 

 

 

- あなたは、Ananda Projectでフルに聴ける、楽しめる、のめり込む事のできるアルバムを制作するのに成功したと思います。特に本作では、一連の4つ打ちの曲が続いた後、途中にインタールードもあり、また違う逸脱に走り、新たな空間に連れて行ってくれるような連鎖がアルバムを通して繰り広げられている。あなたが言うように、本作をフルに聴く事は、1時間弱の長編物語の中に連れて行かれているような感じです。

その通りだと思うよ。私が10代の頃、最も気に入ったアルバムは、Marshall Jeffersonが手がけたTen Cityの最初の2枚のアルバムだったんだよ。これらのアルバムの各収録楽曲を繰り返し通して聴いていた。私にとってこれらの諸作品に秘めている作詞作曲、プロダクションと音楽はイキイキと呼吸しており、生命に満ち、奥深さがあり、弦楽器のアレンジも素晴らしく、ディスコやレアグルーヴから多くの影響を受けていたように聴こえた。彼らはこの過去の功績に敬意を払いながら、当時のハウスミュージック史のひとときに最先端なものを創造していた。Mr Fingersのアルバムみたいに、私はこのTen Cityのアルバムはいつも初めから終わりまで聴いていました。これらの作品は、私の制作者としての雛形となり、真に聴き応えのあるハウスミュージック、ダンスミュージックのアルバムを作りたいと大いに刺激を与えてくれたんだ。
 

 

 

- Release Information -

アーティスト:
タイトル:LOVE IS DEEP
レーベル:LANGUAGE OF THE HEART/OCTAVE-LAB
発売日:4月22日
価格:2,376円

■Amazon
http://goo.gl/8vDIzd

■iTunes
https://itunes.apple.com/jp/artist/ananda-project/id3538090
https://www.pioneerdj.com/ja-jp/product/software/wedj/dj-app/overview/