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東京JAZZ 2011

9月2日(金)~ 4日(日)の3日間にわたり東京国際フォーラムで開催された「東京JAZZ 2011」。今年で10年目をむかえることとなった、この国内最大級のジャズフェスティバル。ラインナップも世界的なアーティストが一堂に会し、根っからのジャズ通の顔をほころばせるクオリティが毎年維持されている。今回は、この「東京JAZZ 2011」へ足を運んだ。

私が行ったのは、9月2日の公演。東京JAZZは、各公演ごとにテーマが設けられているのも特徴的で、この日は「旬のミュージシャンが新たなるシーンへいざなう」というテーマのもと送られた。出演者には、老舗ジャズレーベル"Impuls"からアジア人初リリースを果たした菊地成孔率いる「菊地成孔DCPRG」、表情豊かな歌声と圧倒的なギターテクニックで全米を熱狂させている全盲のシンガー「ラウル・ミドン」、東日本震災の被災者支援のためのアルバム"JAZZ FOR JAPAN"をリリースした、コンテンポラリージャズ界の名手たちによる豪華プロジェクト「JAZZ FOR JAPAN SPECIAL PROJECT」の3組が登場した。正直、最近ジャズに興味を持ち始めた私にとっては、出演アーティストのキャリア云々よりも、国際フォーラムといった広いホールでシートに座りながら、一流といわれるアーティストたちのパフォーマンスがゆっくり体験できることがうれしかった。

台風の影響で暖かく湿った強い風の中、会場となる丸の内の国際フォーラムに到着する。建物内のひんやりとした空気と、年齢層の高さに蒸し暑さで緩んだ姿勢が瞬時にぴっと伸びる。ドレスコードはないが、何を着て行こうか迷ったあげく、普段着より少しキレイなシャツとパンツに身を包んで行った。やはりこういう場所は、ジャケットでビシっときめて行きたい。フォーマルな空気感が漂うのも、このフェスティバルの特徴のひとつともいえる。

舞台となる"Aホール"は、東京国際フォーラムでもっとも大きなホール。2層構造をもつ劇場形式で、座席数は世界でも有数の5012席。そのスケールのでかさにあっけに取られ、これだけでこの日来場したことを満足しそうだった。私は2階席の端よりに座り、開演を公式ガイドブックを見ながら過ごした。この公式ガイドブックもしっかりした作りで、各公演の紹介はもちろん、アーティストのインタビュー、ヒストリーなど読み応えのあるものだった。

開演のアナウンスが流れ、最初に登場したのは、「菊地成孔DCPRG」。なんといっても彼らは編成がおもしろい。指揮者、CDJ、キーボードを担当する菊地成孔と2キーボード、1ギター、1ベース、2ドラムス、2サックス、1トランペットにこの日は、パーカッションがゲストで加わっていた。ほとんど即興なのでは?と思うほど、不安定さや浮遊感をまとった現代音楽的な印象を受けた。各楽器が自由に演奏しているようにすら思えるほど、複雑なハーモニーを奏でながら、それがいきなり一か所にまとまり、美しいハーモニーになる瞬間がある。まさにアバンギャルドな構造に、戸惑いを覚えなるも隣の席に目をやると、50代の男性が目をつむってウンウンと頭を上下に揺らしリズムを取っている様を見ると、ジャズの奥深さ、幅広さを認識させられた。 約1時間の演奏が終わると15分の転換がある。その15分の間で飲み物を買ったり、トイレに行ったり、喫煙所でタバコを吸ったりする。このインターバルは、学校での授業と休憩時間のサイクルに似ていておもしろかった。開演5分前くらいにアナウンスが入るのだが、「やばい、やばい」といいながら早歩きで席に座る感覚が懐かしかった。 次は、「ラウル・ミドン」。広いステージにアコースティックギターを持ち、たった1人で私たちに向け歌い出す。全盲とは思えないギターテクニック。ギターのボディーを叩き、パーカッションのように使ったり、ドンドンとバスドラムような音を出したりと、それをギターでメロディーを弾きながらやってのけるから、あ然としてしまう。スティーヴィー・ワンダーのようなポップなソウルミュージックと、ラテン音楽を融合した音楽は、滑らかで心地いい。また、口でトランペットのような音も出すなど、ギターテクニック、歌唱力、マウストランペットと彼の体自身が楽器のようだ。ファーストアルバム「State Of Mind」に収録されている「State Of Mind」や「SUNSHINE」を披露すると客席から大きな歓声が湧いた。 この日、最後に登場したのは「JAZZ FOR JAPAN SPECIAL PROJECT」。この日の目玉とだけあって、ナレーターによってメンバーが1人1人紹介され、登場する。ボーカルのアル・ジャロウを除くメンバーが揃うと、演奏がスタートした。アルバム同様、誰もが耳にしたことのあるジャズの名曲を演奏していく。これぞジャズと言いたくなるような、夜を連想させる大人な時間が流れていく。3曲目に、私の大好きなルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」がピアノを中心とした構成で演奏されると、勝手に「What a Wonderful World:この素晴らしい世界」の歌詞が頭を回り思わず涙した。震災以降、こうしたメッセージ性の強いものを聴くと、耐えられなくなっている。中盤からボーカルのアル・ジャロウが登場すると、その自由で伸びやかな歌声で一気にポジティブな空間になっていく。 少し話は脱線するのだが、アル・ジャロウは、よく「ダバダバ」「ドゥビドゥビ」といったような意味のない音で歌っており、後で調べてみると主にジャズで使われる"スキャット"という歌唱法だった。スキャットと聴くと30歳前後の世代は、「ティーパッパパロッポ」で一世を風靡したスキャット・マン・ジョンを連想するに違いない。彼の名の意味が約20年越しで理解できた。ジャズを勉強すると、こういう点と点が結びつくことが、おもしろい。そして、最後にアル・ジャロウの代表曲「Spain」が演奏され、この瞬間にも観客が立って踊り出しそうな雰囲気の中、フィナーレをむかえた。 演奏を見終わり、時刻は22時。食事をしに行くもよし、飲みに行くもよし、余韻に浸る時間が必要だ。私の場合は、一緒に行った友人と食事をしながら余韻に浸った。時間にして3時間の演奏。それは、劇場で映画を見るかのように、じっくりとゆっくりと音楽と向かい合う、すてきな時間だった。シートに座り、楽器の美しい音色に包まれる。席は後方の端ではあったが、解像度の非常に高い音が届いてくる会場のすばらしい環境にも、頭が下がる。若輩者ながら、私が勝手に思うジャズの魅力がひとつある。それは、楽器の音色をしっかり聴けることだと思っている。初めて聴くかのような各楽器の美しい音色。またそれを引き出す演者の技術。「キレイ」という簡単に口をついて出そうな感動ではなく、戸惑うほどの美しく洗礼された音色が今回の「東京JAZZ」で体験できた。「美しい」という感動は、普段の生活でそう味わえれるものではないだけに、クラベリアの読者の方へもオススメしたい。 あとがき: 一緒に行った友人は、ジャズにも詳しいアーティストですが、あまりジャズのレコードは買わないようにしているとのことです。買い出したら広くて深くて限界がなさそうって言っていました。確かに、って思いながら、ジャズに興味を持ち始めましたし、レコードも買っていくでしょう。クラシックでもあり、コンテンポラリーでもあるこの音楽を、今後の人生でどれだけ知ることができるのでしょうか?それもまた楽しみです。 Text:yanma (clubberia)