REPORTS
>

Sonar 2014 - 前に進み続ける自由なフェス -

前に進み続ける自由なフェス

今年もバルセロナにSonarの季節がやってきた。毎年世界数都市で行われ、今年はストックホルム、レイキャビク、東京、ケープタウン、来年はコペンハーゲンと世界規模の音楽フェスティバルになっている。20周年でKraftwerkら大物アーティスト揃い踏みだった昨年に比べると、今年は少し落ち着いたラインナップではあったが、それでもMassive attackやRöyksopp & RobynやNile Rogers率いるChicなど充分豪華なもので、次から次へと大物アーティストのステージに人が殺到するような年よりも、逆にエレクトロニック・ミュージックの祭典としては余裕を持って聴いて踊って楽しめるものになっていた。日本からは2011年に引き続いて真鍋大度とPerfumeの振付で知られるMikiko率いるElevenplayによるパフォーマンス、Emufucka(DJ)、Sputniko!(トークのみ)らが参加してそれぞれ健闘していた。
 
Text & Photo : Toshinao Ruike
 
真鍋大度の今回のライヴパフォーマンスは、前半がMikikoの率いるElevenplayとのコラボレーション、後半はドローンを使ったパフォーマンス。既に昨年のカンヌ広告祭や紅白などでは踊っているPerfumeへのプロジェクションを行っているが、おそらくこれまでのコラボレーションの賜物なのだろう、映像と音楽とダンスがとてもよくまとまっていた。その後Sonar期間中は筆者のことを日本人であると知っている現地の友人知人からは「あのDaito Manabeの作品は本当によかったね」と何度も声をかけられた。4月にセルビアのベオグラードで行われたResonateフェスティバルで真鍋氏が講演した際にこれまでの作品をビデオで見せた時には割と会場の反応が他の作品に比べて薄かったのだが、ライヴで体験しないとなかなか伝わりにくいようだ。
  Massive AttackのライヴはTear dropやKarmacomaなどの過去の名曲が中心に演奏されていた。3DがMCで「Bona nit(こんばんは)」とか「Moltes gracias(どうもありがとう)」とカタルーニャ語でとても自然に挨拶していたので、随分カタルーニャにフレンドリーだなと思って観ていたが、ライブ後半からバックのスクリーンにカタルーニャ語で政治的なメッセージが現れた。

「人 対 国境」「自由 対 秘密」「詩 対 スローガン」「音楽 対 産業」「民主主義 対 資本」「(次の国王に即位する予定の)フェリップ4世は退位する」、そしてスペインの与党PPの政治家がコンサートのたった数時間前に物議を醸した「(民族主義を煽る)カタルーニャの学校はうまくいっていない」という発言、そして現在ブラジルで盛り上がっているワールドカップに莫大な費用がかかっている問題など、現地の人間でないと中々出てこないようなリアルタイムなトピックも含まれていた。

影響力も少なくない英国のグループであるMassive Attackが独立志向の強いスペインのカタルーニャ州において現地語で、しかも複雑な現地事情に通じた政治的なステートメントを表明することはとても勇気のいることだ。昨年のSonarではKraftwerkが日本の原発問題についてはっきりとした反対姿勢を曲中で表明していたが、必ずしも簡単な解決方法がない諸問題について著名なアーティストもきちんと意見を言える環境があるということは、バルセロナに関して言えばはっきりとそうだと言えるだろう。

  Röyksopp & Robynはおよそ2時間ほどのセットをRöyksoppとそのバンド、Robynのソロ、そしてRöyksopp & Robynとしての共演の3部構成に分けていた。1部・2部はそれぞれの演奏をしっかりと聞かせ、3部はなんとバンドが金ラメのようなマスクを被り、Röyksoppも宇宙人か何か謎の生物のような格好で、Robynは彼らに囲まれて股の間からポーンとボールを落とす・・・、という不思議な展開になった(残念ながら写真はNG。)
  これまでRöyksoppは、ビデオクリップなどで謎の生物が出てきたりすることはあったので、彼ららしいと言えば彼ららしい。ここ数年DJが被り物をしたり、大がかりな映像や照明の演出、凝った形のDJブースなど様々な舞台演出を行っていたのを特にSonarのような大きなイヴェントで見てきて、楽しいが少々食傷気味でもあった。その点、Röyksopp & Robynの演出には未知の生物との遭遇というストーリや演劇性があった。また先のセットでもそれぞれが十分にミュージシャン・シップを発揮してオーディエンスを楽しませていて、特にRobynのソウルフルな歌声は今時の女性歌手としては珍しいくらい貫禄があった。EDMを中心に際限なく派手になっていく状況がある一方で、彼らなりの舞台演出の在り方についての回答だったのではないかと感じた。
 
コアラの被り物をして会場から元気にステージに駆け上がったのはKid Koala率いる”Kid Koala Vinyl Vaudeville 2.0”。古き良きアメリカのヴォードヴィル・ショーを模倣していて、とにかく観客とのインタラクションが楽しい!地元の客は2割にも満たないが、紙に書いた現地語カタルーニャ語のメモを読みながら「僕はコンピューターやPCを持ってきていません。レコードでプレイします。」と朗らかに宣言。ヴォードヴィルに似つかわしい昔のレコードを使ってプレイするが、You tubeなどでも以前バイラルになっていた名曲Moon riverの3枚使いなど、ターンテーブリストらしく様々なテクニックを披露してみせる。
 
途中から観客をステージに上げてリンボーダンスをさせたり、観客席に飴やら紙飛行機やらTシャツやらを投げたり、おもちゃのラッパを持たせてワイアレスのビートボックスを持ったKid Koalaと共演させたり、最後にはステージに上がって一緒に盛り上げてくれた観客に彼のシングル盤をプレゼント。どこの田舎の見世物興行なのか!と思うが、これがまたヴォードヴィル・ショーというテーマにぴったりで、しかも彼なりの新しいターンテーブリズムの見せ方にもなっている。そして、明らかに古臭いと思いつつも、我々はとても楽しんでいた。とっくの昔に廃れてしまったエンターテイメントを素敵な形でリヴァイヴァルさせてくれたDJ Kid Koalaには感謝の気持ちしかない。
 
御大Nile Rogers率いるChicは、ステージに観客を上げて昔懐かしのヒット曲の数々をプレイ(プロデューサーとして関わったMadonnaの「Like a virgin」までカバーしていた。)こういうサウンドは流石にあなたたちにはオールドスクール過ぎない?と一緒に行った20代前半の友人に聞いたところ、そんなことはない楽しんでいると答えられた。Daft punkやPharrelと共演した曲が昨年大ヒットしたことでやっかむ向きもあると思うが、時代が一回りも二回りもして、若い人もこういったサウンドを古臭いと感じずに楽しめる機会になったことはよいことだったのではないか。

その他に、相変わらずパワフルなNeneh Cherry、DJとして脂が乗っていたTheo Parrish、サイケデリックな演出が印象的だったMatmos、スタイリッシュなDJセットで盛り上げていたGesaffelstein、3日間大きな木材でできた装置をがっこんがっこん突いたり叩いたりして演奏していたカナダのサウンド・アーティストMachine Variationなどがとてもよかった。
 
Sonarが終わるとスペインは夏休みの時期に入る。この週末、小中学校は年度末の終業式を迎え、学校によっては年度末パーティーで校庭でクラブ・ミュージックを楽しんだりもするそうだ。泡バズーカまで使っている学校まであるという。皆さんも楽しい夏休みを!