NEWS
>

「仕事はカルチャーを創ること」 パーティー制作の基本をプロが伝授

 11月19日(土)、MASTERS AT WORK (以下:MAW) 10年ぶりの来日公演がいよいよ開催される。10年という月日が物語っているようにKenny DopeとLouie Vegaが揃って来日するのは奇跡的なことだ。クラベリア編集部としては、このパーティーを多くの人に体験してほしい。そこで一肌脱いでくれたのがパーティーを主催する会社、PRIMITIVE INC.代表の大山陽一さん。このMAW来日公演は、同社の設立10周年を記念であり、さらに10年前のMAW来日公演を行ったのも彼らなのだ。以降、数々のパーティーを創りあげてきた彼らは、いわば、パーティー制作のプロ中のプロだ。そんな彼らに勇気を振り絞り「MAWの魅力を…」ではなく、「パーティーを創る方法を教えてください」と相談したら笑いながらOKしてくれた。大山さんは「基本的なことになってしまうけど…」と遠慮がちに話してくれたが、そこには、クラブシーンに関わるものとして大切な言葉が溢れていた。こんな気持ちで創られているパーティーだったら、たとえMAWが出ていなくても遊びに行ってみたくなる。

取材・文:yanma(clubberia)
写真:Satomi Namba(clubberia)
 
——企画書を出すときは何て言われるかドキドキしました(笑)。ご協力ありがとうございます。

MAWの公演を取り上げてくれるのは嬉しいし、よくあるアーティスト紹介の記事より、こういった切り口のほうが面白いかもしれないよね。

——読者の人は大山さんのことを知らないと思うので、名前、年齢、クラブ業界で働くきっかけなどから教えてもらえますか?
大山陽一、39才です。ハウスやテクノ、ディスコとか、4つ打ちが中心のパーティーを創っているPRIMITIVE INC.の代表です。でも10代のころは周りがヒップホップ聴いてない奴はイケてない! みたいな環境だったんでブラックミュージックばっかり聴いていました。ちょっと話が本題からずれるんだけど、PRIMITIVE INC.とは別にDMC(世界最大のDJの大会)日本支部の代表もやっています。話を戻すと、20歳ぐらいに、渋谷のB’stという比較的大きな箱にアルバイトとして潜り込んだんです。その店では、ホールもバーテンダーもやったし、それこそエレベーターボーイみたいなこともやりました。お店は半年ぐらいで閉まっちゃったんだけど、その時に出会った人たちとの縁で、クラブ系のコンテンツを扱う制作会社に入ったんです。その会社は今は無くなっちゃったんだけど、2000年代の都市型フェスを牽引した「渚」だったり、今でも続く「Body&SOUL」を日本に持ち込んだ会社です。西麻布のYellow(2008年に閉店した、伝説的なクラブ)でも定期的にパーティーを開催していたりしました。

——印象に残っている仕事は何でしたか?
入社して間もない頃、Dimitri From Parisのツアーを制作したことかな。今でも英語は苦手なんだけど、当時なんて全然で。でも彼と2人きりで日本を4箇所ぐらい廻った。その時のDimitriのプレイに衝撃を受けて今の自分がいるといっても過言じゃない。当時、彼のことは知ってはいたけど、プレイは聴いたことがなくて、ちゃんとは理解していなかった。横で聴いていたらSalsoulやWest Endのソウルをプレイしながらハウスミュージックまで持っていきつつ、その中にArrested Developmentが入ったり…。今でこそジャンルなんて大した意味がないけど、当時は混ざりあうことがなかったし画期的だった。自分が好きなブラックミュージックと4つ打ちがシンクロしていったんだよね。そこからはあらゆるジャンルを内包できるハウスミュージックに一気に傾倒していきました。彼とはあまり話せなかったけど、いい経験をさせてもらった。それから7、8年の修行期間を経て、自分の会社PRIMITIVE INC.を立ち上げました。

——会社を立ち上げた理由というのは?
パーティーを開催するというのは博打みたいなもので、ダメになる時は会社にいたってダメになるし。それなら自分でやるのが楽しいかなと思って。

——当時、自身の何を武器にしようとしましたか?
正直言うと何も考えてなかったんだよね(笑)。今にして考えると「やりたいからやる」って気持ちだけで会社を立ち上げる無鉄砲さが武器だったと思います。

——10年前の最初のパーティーが、今回10周年パーティーで迎えるMAWだったんですよね。
そうだね。会社にいた時に何度かMAWを呼ぼうって提案したんだけど許可がもらえなくて。だったら自分の会社の設立記念で呼んじゃえって。

——当時も彼らを呼ぶのは大変でしたか?
すごく大変。2人のスケジュールが合わないから。それに条件のハードルも高い。でも当時20代だった自分たちがMAWを呼べたのは一言で言うと「運」。周りの先輩たちが支えてくれて開催することができたと思ってて、今でも感謝しています。

——開催していかがでしたか?
尋常じゃない盛り上がりだった(笑)。もう10年も前なのに、今でも、あの時のパーティーのことを言ってくれる人たちもいるし。ただ予算が掛かり過ぎて、収支的には決して満足できるものじゃなかったけど。

——不躾な質問ですが、パーティーって儲かるんですか?
はははははは。返答に困るな(笑)。すごく根本的な話になるんだけど、カルチャーとお金は残念ながら相性が悪いと思います。これは作り出すものが違うから。極端な話をしちゃうと仕事ってお金を作ることだけど、自分たちはカルチャーを創っているつもり。お金を目的にパーティーをしたりすると瞬間は潤うかもしれないけど、何年も続くものではないと思う。ただ、想いを持ってパーティー(カルチャー)を続けていくと、そこにフォーカスがあたる瞬間が絶対にある。そういったときに、お金はちゃんとついてくるはずだから。
インタビュー取材を受ける大山さん


自分は何をしたいのか?
パーティー創りの最初は、自問自答を繰り返すこと


——それではプリミティヴ流のパーティー制作メソッドを教えてください。最初は企画からだと思いますが。
自分が一番やりたいことは何なのか? この自問自答を繰り返すこと。これがとても大事だったりする。自分の場合だったら、自分の好きな音楽を一人でも多くの人に知ってもらいたい、共有したいっていうのが根底にある。でも何がしたいかは人それぞれで違うよね。好きなアーティストを自分で呼びたかったり、または自分でDJをしたかったり、仲間とお酒が飲みたかったり…。自分がやりたいことと周りの環境を近づけていくのがパーティー創りの最初だと思います。

——なるほど。では箱選びのポイントは?
パーティーの規模や予算によるけれど、可能性がある箱だったら、まず全部行って遊んでみること。それで自分の理想にハマるかどうかを確認していってみるといいと思います。

——大山さん的な良箱の定義というのはありますか?
働いているスタッフの顔かな。イケメンや美女とかそういう話ではなくて、顔つきです(笑)。いいクラブは、いい音楽がかかっているから、スタッフの音楽的偏差値も自然と高くなって、少しマニアックなお客とも感動を共有できるんだと思う。要はお客さんの目線で物事を捉えられるんだよね。お酒に対してもそう。客と一緒にお酒を楽しみながら、出されているお酒のクオリティーを日々チェックしている…はず(笑)。

——ちなみに箱の人と仲良くなるにはどうしたらいいでしょう?
話しかければいいんじゃないかな(笑)。俺が思うクラブの面白いところは、クラブには会社の社長もいれば、アルバイトの人もいたり、ジェンダレスな人、様々な人がいる。でも、肩書、年齢、性別に関係なく、同じダンスフロアで同じミラーボールの下、同じ時間と音楽を共有し楽しめる場所がクラブなんだよね。クラブスタッフは時に厳しいところもあるけど、パーティーを構成する一部であることは間違いないから、彼らも等しい存在な訳で。だから気さくに話かけてみるのもいいと思います。

——ブッキングに関してなんですが、まず日本人アーティストにオファーをかける際のマナーは何でしょうか?
昔は会って直接やりとりをしないといけなかったけど、今はSNSで気軽にコンタクトが取れるようになってきた。とは言え、現場に行ってパフォーマンスを体験した上でコンタクトを取るのは礼儀です。アーティストによっては、リリースしている楽曲とDJの印象が違うことってよくあるし。

——海外アーティストの場合はどうなんですか?
これは少し特殊かな。PRIMITIVE INC.にはYellowでブッキングをやっていたスタッフがいるから、設立当初から海外アーティストとのリレーションは多く持っていた。これは一朝一夕にできたものではなくて、徐々に信頼とネットワークを築いていったものです。でも今はSNSからでもオファーはできなくはない。ただアーティストも大物になればなるほど、見ず知らずの人や、極東の地からのオファーなんて気にかけてくれないからさ。世界中の人から毎日オファーが届く訳だし。だからアーティストの招聘を仕事にしている、我々みたいな会社に相談してみるのも手法の1つかも。ビザを取ったりしないといけないし。

——ビザですか?
海外のアーティストが日本でDJとして働くのにはワーキングビザを準備しないといけません。取得申請には審査が必要になってくる。個人が「イベントを開催して海外からアーティストを招聘する!」と言っても申請は受け付けてくれません。申請をするには実績をもった会社が書類を提出する必要がありますし。

——外タレを呼んでツアーすることになったときの費用の項目には、何がありますか?
大きいのは出演料と渡航費。それから宿泊代、交通費、さらに言えば食費などの諸経費。ここら辺が海外アーティストにかかる費用で、これに会場費、国内DJの出演費、広告費なんかが足されていきます。

——積み上げていくと、ものすごい金額になりそうですね。これをエントランス売上の収益で払っていく。ただ、そのときに頭をよぎるのがスポンサーなのですが、どうしたら協賛してもらえるのでしょうか?
定型の話をしてしまうと、パーティーの魅力を企画書に落とし込んで、各企業のマーケティング担当者にアポを取って営業に行くのが基本。集客でいうと1000人近く入っていないと興味は示してくれない。この業界にいない人にパーティーの魅力を理解させることは、とても難しいことだし。
PRIMITIVE INC.の話をすると、サポートしてくれている企業やメーカーの半分ぐらいは昔からクラブで遊んでいた友人たち。お互いに大人になって、遊び仲間が仕事仲間になっていった感覚なんだよね。そう考えると「よく遊べ」っていうのがアドバイスなのかもしれません。
2015年にPRIMITIVE INC.がプロデュースしUNITで行ったハロウィンパーティー「DANIEL WANGとHALLOWEEN DISCO」写真:Niiiyan、yoshihiro yoshikawa)


反省と修正を繰り返し、パーティーを続けていくこと。
それがプロとアマの大きな違い。


——パーティーの企画から順を追って話を聞いていますが次は集客。集客を増やす方法はなんだと思いますか?
それは俺も超知りたい(笑)。そうだな…、いくら素敵なパーティーをしていても人に伝わっていなかったら人は集まらない。そうなるとプロモーションっていうのが大事になってきます。逆に質問なんだけど、パーティーの魅力を伝える方法として一番有効なものって何だと思う?

——クラベリアを使うこと…。僕の立場上、そう言うしかないじゃないですか(笑)
そうだね、ごめん(笑)。最も有効なのはクラブなんかで出会った人にフライヤーを渡して、そのパーティーの魅力を直接伝えることだと思います。オーガナイザーが一番パーティーの面白さを知っているはずだし、その場で「じゃあ行く!」って言わせちゃえばいい。ただ、その行為を何百人、何千人、何万人にすることはできないから、メディアに魅力を代弁してもらったり、SNSを活用したりするんです。その際には自分のパーティーの何が魅力的に映るのかを客観的に見ることも重要です。

——集客に関していうと、よくDJの集客論争がネットで話題になりますが、思うことはありますか?
DJはファンを付けたり、増やす努力をしないといけない。その為には、自分の音楽を聴いてもらわないといけないし「この日、俺は◯◯でやっているから」と声をかけるのは最低限必要なことのはずだと思います。告知と集客って紙一重なんだけど、とは言え、音楽をおろそかにして集客に走るDJは好きになれない。クラブは音楽を楽しむ場所だから。

——本末転倒だと?
そう。だから我々は、そのスタイルでパーティーを創っていません。集客ももちろん大事だけど、それだけだと長続きはしない。今は集客に走りすぎてシーンが疲弊しちゃっていると思う。ただ疲弊しきった感覚はあるから、そろそろ純粋に音楽に立ち返る時代に戻ってきたんじゃないかな。長い目でみたら日本のクラブカルチャーにとって必要なステップだったのかもしれませんね。

——昔、知り合いのDJが「俺はいつまで友達のお金でパーティーをしなきゃいけないんだ…」とポロリと言っていたことを思い出しました。ファンと友達って違いますよね?
友達は1回や2回は来てくれるけどね。でも友達って関係性だけだとクラブじゃなくても会えるし何十回も来てはくれない。でも音楽に満足していたら100回でも来てくれるでしょ。そこがファンと友達の違いだと思います。もちろんファンで友達って人もたくさんいるとは思うけど。

——これは僕が経験したことなんですけど、10年前、20才くらいの時にDJをやっていて、友達が遊びに来てくれたんです。DJが終わって友達に今日の自分のDJが良くなかったゴメンと謝ったら「お金を払って入ってるんだよ。お客に対してその言葉は絶対に言ったらダメだよ」と怒られた経験があり、以後、肝に命じていました。
DJは生モノというか、客の空気で良し悪しが如実に出る人もいるから一概には言えないけど、少なくてもお金を払って聴いている人がいるのであれば、どんな状況でもベストを尽くすべきだと思います。自分の最大限を出しきっているなら、謝る必要もないけど。でも素敵なお客さんだね。

——さて、インタビューもそろそろ大詰めです。いままではパーティー前のお話だったのですが、パーティーが終わった後に気をつけていることなどはありますか?
プロとアマの違いって継続できているかどうかだと思います。1回だけのワンオフパーティーって極端な話をすれば誰でもできる。でもプロは反省を繰り返して修正して次に繋げる。数を重ねることでパーティーの純度を高めていく。自分も今でも反省しきりです。良いパーティーには長く続いているものが多いですね。

——その反省と修正が繰り返されたパーティー純度100%の結晶が11月19日(土)のMAW来日公演になるわけですね。
はははははは。紹介してくれてありがとう(笑)。MAWをはじめ、我々が10年の間にお付き合いをさせてもらったアーティストに出てもらいます。

——今回はお昼に開催なんですよね。
そう。だから未成年者も入れる。

——10代がMAWで踊っていたら日本のダンスミュージックシーンの未来は明るいですね(笑)
20歳未満ってクラブに入れない現状があるけど、本来は10代の多感な時期に音楽体験をすべきなんだよね。そういった意味でも昼間の開催ってことに意義を感じています。あとは90年代にMAWがデビューした当時の人たちがパパやママになってるからキッズエリアも作りました。日が暮れたらキャンプファイヤーまでやっちゃいます。MAWの来日公演だけど出演者も多いし、ダンスミュージックのフェスだよね。

——それは楽しみですね。ほかに見所はありますか?
まだフロア割やタイムテーブルは発表してないんだけど、メインフロアのアリーナ出演者はLouie VegaとKenny Dope。要はMAWの2人だけです。出演者が多くてMAWのパフォーマンス時間を気にしている人もいるので先に伝えておきたくて。後はちょっとしたこだわりで、本来昼間の開催は会場名がSTUDIO COASTなんだけど、ageHa名義のクラブスタイルで営業してもらいます。10年間ずっとクラブシーンに居るから、これはPRIMITIVE INC.なりのアティチュード。あんまり気付いてもらえないから、この場で言っておきます(笑)。
 
- Event Information -
タイトル:PRIMITIVE INC. 10th Anniversary × ageHa 14th Anniversary MASTERS AT WORK in JAPAN - It’s Alright, I Feel It! -
開催日:11月19日(土)
会場: ageHa@STUDIO COAST(東京都江東区新木場2-2-10)
時間:14時〜21時
料金 :前売券 ¥5,300- 当日券 ¥5,800-
出演者:MASTERS AT WORK(Louie Vega & Kenny Dope), Lights by Ariel, DJ NORI, FORCE OF NATURE, HIROSHI WATANABE a.k.a KAITO, やけのはら, MONKEY TIMERS, Kaoru Inoue, 高橋透, Dazzle Drums, DJ Yogurt, Inner Science, Midori Aoyama, 青野賢一, LO:BLOC a.k.a DJ SODEYAMA, DJ KENSEI, 沖野修也, YOSA, DJ SHIBATA, XTAL, DJ YOKU, 橋本徹, peechboy, 宇川直宏
オフィシャルHP:http://mawinjapan.com/

PRIMITIVE INC.
http://www.primitive-inc.com/
https://twitter.com/primitive_inc
https://www.facebook.com/primitiveinctokyo

■前売りチケットの購入はコチラ
https://ticketpay.jp/booking/?event_id=5541
29
APR

RANKING

  • WEEKLY
  • MONTHLY
  • ALL