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DJ EMMA

 DJ EMMAの活動30周年記念パーティーが11月21日(土)に恵比寿LIQUIDROOMで開催された。オープンから列ができるほど多くの人が集まり、終始歓声で溢れるパーティーだった。最後の曲をかけ終え、オーディエンスに深々と頭を下げるDJ EMMA。あの時DJ EMMAは何を思っていたのだろう? 当初このインタビューでは当日のパーティーを振り返ってもらおうと思っていたが、取材をしていくと、すでにDJ EMMAは先を見ていることに気付く。クラブシーンの問題点や風営法改正も見据え、皆を率いて前進しようとしていた。

取材・文:yanma(clubberia)
インタビュー撮影:難波里美(clubberia)、JAMANDFIX(REALROCKDESIGN)
 

 

 

 
違う価値観の人たちと敢えて向き合うことによって新しいものが出てきたっていうものが僕はクラブだと思っています。そんなクラブの姿が僕は忘れられないんです。



——LIQUIDROOMで最後の曲をかけ終えた時、何を思いましたか?
肩の荷が下りましたね(笑)。普段、プレッシャーってあんまり感じないんですけど、今回ばかりは、周りのみんながすごく応援してくれ支えてくれた。というのもあって期待以上ものを提示しなくてはならなかったし、楽しんでもらおうということがまずあって、いろんな意見を聞きながら当日まで煮詰めて、選曲にしても何にしても慌てずにできました。当日は挨拶や乾杯でやけに忙しかったからお酒を飲んでも酔わなかった。だからここ何年もなかったくらい、かなり冷静にDJをできたんです。お客さんひとりひとりの顔が見られるくらい。

 

 

——アンコールでかけたのがLed Zeppelinの「天国への階段」でしたね?
DJ EMMAがコレを1番上手くプレイ出来ると思うからと、85年発売のダンスカバーの12インチをパーティー当日にDJ NORIさんから頂いたんです。ずっと欲しかったんですよ。Led Zeppelinの曲はほとんど好きですけど、けっきょく何十年経ってもあの曲が一番なんです。

 

 

——EMMAさんの中でロックミュージックっていうのはかなり大きいですか?
生き方にも影響していますから大きいですね、半分は占めている。僕はもともとパンクのバンドとヘヴィメタルのバンド一緒にやっていたぐらいですから(笑)。僕からしたらハウスとテクノのようなもので一緒なんですよロック全般ギターサウンドは。チャレンジ精神とパワーと狂いたくなる瞬間。そんなロックが好きですが、ロックしか聴かないなんてもったいないので、黒人音楽も好きという…。

 

 

 
——EMMAさんのなかであの日最も強く印象に残った瞬間は何ですか?

最後の胴上げが怖かったっていうのがありますね(笑)。みんな酔っ払っているかもしれないから誰かが冗談で支えてくれないこともありそうじゃないですか(笑)。あとは、Kenny Bobienが「Why We Sing」をアカペラで歌ったことですね。あれにはやられました。この日、Kennyとの間には何も決めていなかったんです。それこそオープンから何も決めていなかった。決めていたのは出演順だけ。オープンからラストまでインプロにしたかったんです。ライティングはAIBAなら対応できるのも分かってましたし。今回LIQUIDROOMの出演者が僕を含め3人だけど、決め事なしでフロアの様子をみて各々がベストの音を出すようにしたかった。オープンをKUNIYUKI君にしたのは、そういった理由もありました。彼もインプロでパフォーマンスをして、そこからお互いのタイミングで僕が引き継ぐ。Kenny Bobienも彼がベストだと思うタイミングで出てきてもらった。Kennyのライブもセットリストは組んでいなくて、彼もその場の雰囲気を見て曲を指定してきた。「じゃあ次は6曲目。じゃあ次は3曲目」って。そしたら勝手にアカペラで歌い出したんですよ。勝手にって言い方は悪いですけど(笑)。そこで僕的にもこみ上げて来るものがあったんですよね。

 

 

——あのアカペラから友人もずっと泣いていました。あのアカペラはすごかったですよね。
あれはすごかった。やはり人の声、歌の力には特別なものがある。その場でKennyはアカペラがベストだと判断してやったんですよね。それはお互いに信頼していなければできないですが、素晴らしいパフォーマンスだったと思います。

 

 

——でも、すべてインプロにした理由はなぜですか?
もともとDJってフロアの様子を見て曲を選ぶからインプロですよね? 今のDJって1曲目から決まっているかのように再生ボタンを押してジャンプとかするじゃないですか? それ、疑問に思いますね。無理している感じ。その場その場の空気があるわけだから。DJがそうなってしまうとお客さんまでそうなってしまう。お客さんが悪いわけではなくて、DJたちがエディケーションみたいなことをしなければ、そのDJに付いてきた子たちは、そのままで終わってしまう。

 

 

——20歳の子は20歳の子たちだけで遊んでしまいクラブを卒業していくということですか?
そうですね。現状若いコ向けのパーティーやクラブは画一化されている。それをとやかく言うつもりもないけど、やっぱりいろんな人たちを混ぜたいっていう想いが昔からありますから、そのために“50代、60代の人たちと20代の人たちをどう混ぜるか”っていうのも今回のテーマにありました。25歳以下になると僕の娘世代になるんですけどね(笑)。当日25歳以下の子も19人ほど来てくれていたみたいです。若い子に来てもらうという部分では課題は残りましたが、選曲で媚びてまで来てほしいとも思いません。若い子がクラブにいなくちゃつまらないし絶対必要ですが、クラブはあくまで大人の遊び場というポジションは守りたいですね。結果的には、いい感じで歯車が回ったパーティーだったとは思いますけど。

 

 

 
——そうですね。久しぶりに列ができているクラブを見ましたし、最後の光景を見るとDJ、オーディエンス、関係者の関係がフラットに見えたんです。クラブのいいところってこうだったなと思いました。 

クラブっていうのは人と人が影響しあっていける場所。企業の社長さんが学生やアルバイトの子たちとダンスフロアで踊ったり話したり、そこがかっこいいと思うんです。違う価値観の人たちと敢えて向き合うことによって新しいものが出てきたっていうものが僕はクラブだと思っています。そんなクラブの姿が僕は忘れられないんです。

 

 

——たとえばDJをやり始めた頃のEMMAさんが、この日のLIQUIDROOMの光景を見たら何て思うでしょうか?
なんて思うでしょうね(笑)。ただ当時から僕の夢は“いいDJになりたい”それだけでした。いいパーティーをやりたい、いいDJをしたい、いい音楽作りたい、先輩の高橋透さんやDJ HEYTAさんやNORIさんに認められたい。その一心でやっていました。

 

 

——パーティー前にEMMAさんからクラベリア読者へメッセージを寄せてもらいましたが「もう一度ダンスクラブのかっこよさを伝えたい」という部分がありました。EMMAさんの言う“かっこよさ”というのは何でしょうか?
僕の世代も上の世代を見て憧れてきました。それは理屈じゃなく、かっこいい人たちがいて、その人たちが楽しんでいる光景を見て、次の世代が「これかっこいいな」と思っていることが大事なんでしょう。僕らの役割って、そのかっこよさを伝えることもあると思うんです。たくさん見てきてる訳ですから。だからたとえば旗を振るのではなく、煽るMCじゃなく音楽で勝負してほしい。そこのかっこ悪さっていうのを分からなくなってしまったのは、僕は藤原ヒロシさんが引退したタイミングからだと思っていますけど。

 

 

——それはなぜですか?
ヒロシさんがいたから守られていた聖域があったと思うんですよ。DJ EMMAの勝手な解釈ではありますが、ヒロシさんがいなくなった時点で“崩壊したな”って感じました。もちろん今でも「クラブ」にとって影響力のある方ですが、ファッションに対してだでなく、DJ、 スケート、パンクなど“音楽”を取り巻くカルチャー全般への影響力。ヒロシさんがDJであったことで、すべてがいいバランスで保たれていた気がするんです。それをリスペクトしているからこそ、僕らも聖域を守ってきたつもりですが今は、クラブのかっこよさ自体をどうやって伝えていくかっていうことが課題に なっしまったようです。しかし、大貫憲章さんや須永辰緒さん、先輩たちのぶれなさは、ひとつのヒントだと思っています。

 

 

「いいDJになりたい」、「いいパーティーをやりたい」、「いいオーガナイザーになりたい」、「いいクラブを作りたい」っていうところからスタートしていたのに現状では違いますよね。
 

——では、逆にカッコ悪いと思う部分はありますか?

VIPルームやDJブースが今キャバクラ状態になっているっていうのが問題になってる部分もあり、残念で仕方がないですね。なんでこうなっちゃったのかって思うんですけど、それはDJや関係者たちがしているからなんですよね。東京から来たDJたちがしているから。偉いDJに言われたから…、所謂接待ですね。かっこ悪いからやめなよって忠告する時もありますが、下らない世界になってしまったとは思いますね。まずは音楽を聴く、音楽で踊るっていうのが前提にあってから、そのなかで出会いがあるのは普通だしナンパがあったって良いと思うんですけど。キャバクラはキャバクラとして営業して、クラブはクラブとして営業しましょうよ。だから、ダンスクラブって言葉を最近多用しているんです。「もう一度ダンスクラブのかっこよさを伝えたい」そういうことです。

 

 

——そうなんですね…
昔は「いいDJになりたい」「いいパーティーをやりたい」「いいオーガナイザーになりたい」「いいクラブを作りたい」っていうところからスタートしていたのに現状では違いますよね。「売れたい」「儲けたい」そういうことになってしまっていると僕は思っています。若いDJの子に「どうやったら成功するんですか?」て聞かれることが多くなった事も現状をよく表しています。維持していくのも大変なのに、そこまで考えないし分からないんですよ。人のことを羨んでいる場合じゃなくて、やることをやりなよって話なのに。そこで何かを変えるようなことは、1人でもできることをみんなに知ってほしいと思うんです。盛り上がっている、景気がいいところに寄ってしまうのは簡単で誰でもできますが、自分で作っていかないと。「この時代だから、日本だから、しょうがないんだ」ではなくて、できることはあると思います。

 

 

 
——スターシステムの弊害があるとした

音楽とは関係ない部分で“憧れさせる”っていうことによる歪みでしょうか。昔から反対ですね。成るべくしてなってしまうものがスターでしょう。DJで売れたらこんなところに住めるよとか。F1レーサー位稼げるとか、ホントどうでもいい。モチベーションって意味なんでしょうが勘違いする人続出っていうか。豪邸訪問とかも僕は裏原の子たち見ていて、うわーって思ってた方だったので…。だから裏原ブームが崩壊したっていう側面って結構クラブと被るんです。少なくとも、自分の好みではないので。

 

 

——EMMAさんのその考えって昔から変わらないんですか?
昔から変わらないです。昔のインタビューでも一貫して話している筈です。だから僕はテレビや映画、CMなど全部断ってきました。それほど興味もないし。断ってきましたけど、これから風営法改正案でそうも言っていられないので表に出る覚悟をしたんです最近。積極的にやっていく訳ではありませんが、もう断らない。テレビに出てなんぼとか……それとは意味合いが違うんですけどね。今のDJ達のイケイケ感とはね。日本がそうなってしまったのも悪い意味で海外のシーンやDJの影響だとも思いますが。分かりやすい例えだと、建築、映画、いつの時代であっても、新しいものや海外の流行、それが全て正しい選択とは限りません。音楽やクラブについても同じでしょう。

 

 

——昔に比べて上下の繋がりが弱くなった、コミュニティーが横並びになってしまったのも原因のひとつではないですか?
それもあると思いますけど、それよりも誰でもDJが簡単にできるようになってしまった事に脅威を感じます。ビートシンクで寝ながらでもできると言ってもいい。その結果、影響力のある人がクオリティー云々ではなくDJブースに立ってしまっている。それがいい悪いではなくて、世界中どこもそういう時代なんですよね。楽しければいい、イケイケドンドンとかっていうのがもともと好きじゃないのもありますが、だからこそメインストリームの差し障りのないものとは逆の立場の、 自分はそういうインタビューを読みたい。どうせ話す機会があるのなら、もうちょっと社会的なことを話したいと思う方なんで。上下の繋がりについては自身のレーベルでの活動以外にも、AIRAのワークショップや、DJ集会も去年は何度か開催し手応えは感じています。有名無名関係なく方向性が合えばいつでものスタンスは変わらないので、もう少し頑張れるかなと。

 

 

——それ以外にクラブの課題はありますか?
売上のために好きじゃないDJたちでパーティーをやらせて、月に1回だけ箱側がやりたいことをやるなんてナンセンスだと思います。そこで何が起こるか、当たり前のように歪みが起こる。そして絶対壊れます。3年待てとは言わないですけど、せめて3ヶ月待ってほしい。たとえば東京でいったら楽曲もプレイも評価の高いGONNOのような、大阪でいったらSEKITOVAのような若いDJたち。彼らが他の出演者との接着剤みたいな感じで使われるのではなくて、彼らをメインにして気兼ねなくDJできる環境、才能を伸ばす最短距離なブッキングが増えれば全然違うと僕は思います。でも、託せる人がいないのが現状だと思います。

 

 

——託せるというのは?
自信があればの話ですが、自分たちの店やパーティーを、そういう才能があるDJ/アーティストに託せるでしょう。集客云々でなくブッキングしますよ。そういう人たちが出てきていない。とても少ないと思います。ある時期からクラブシーンが芸能界化してしまったことも、とても影響していますよ。ブースに誰でも立てるということは、箱側の拘りが無くなかった事を意味します。チョイスですから、こっちに託している訳です。別に芸能界が嫌いなわけじゃないですけど、芸能界とクラブは違ってほしい。世界中がもしそうなったとしてもね。日本って、とても新しいものに目がない一方で、古いものも大事にするので、微かな期待はしています。

 

 

——東京と地方の関係性をどう思っていますか?
東京の責任は極めて大きいです。事業者たちからDJも含めて、やりっぱなしを辞めれば解決しますよ。良い関係が築けるはずです。今は大きく分けて2種類ある東京スタイルですが、みんなが認めるかっこよいものを東京が提案できるのなら、名古屋も大阪もそうなるし、福岡もそうなるかもしれない。そこが、日本から発信していくための鍵になると考えています。

 

 

——情報は今どこでも得られるので、昔ほど東京と地方の関係性は強くないようにも思いますが。
それはそうですね。東京に憧れるっていう感覚も薄れていますし、盲目的な東京支持も少ないと思います。ですが、たとえば鹿児島なら鹿児島のシーン、福岡なら 福岡のシーンって違うように、九州ひとつとってみてもそれぞれ違うんですよね。全然離れた場所なのに似ることも。で、その中で彼らはどこを見ているかって言ったら、イビサを見ているわけでもベルリンを見ているわけでもないと思うんです。本当に早い人なら北欧やバルトのシーンを見ているでしょうが、腐っても鯛っていうか、東京で今何やっているか、やっぱりまだ東京が見られている部分は強いと思いますよ。でも東京のシーンにそれを背負う意識が低い。だから僕が思うのは、DJ NOBUみたいに千葉でちゃんと自分の基礎を作り、全国、世界で活躍することだって不可能ではないということが重要な気がします。それは拠点を含めて、自分たちが生み出す何かっていうのを考えたほうが良いという良いお手本でもありますよね。東京だけがベストではないというか。で、誰になんて言われようが“俺はこれがかっこいいからやるんだ”っていう信念が必要だと思う。どちらにせよ今の流行なんて、たいして新しい訳ではないのだから、自分が本当に好きな音楽を選ぶことによって、すべてが上手く回っていくのではと思っています。その可能性に賭けるのに充分な人材は既に揃っているのではないでしょうか? そのために自身が関わるクラブやパーティーでは、そうした方向性を明確にしていければと思っています。
 



■DJ EMMA 特集
http://www.clubberia.com/ja/features/feature-146-dj_emma/