INTERVIEWS
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Alex Smoke

 スコットランドは、グラスゴー出身のAlex MenziesことAlex Smoke。10代の4年間を、世界遺産でもあるイギリスのダラム大聖堂でゴスペルを歌う楽隊員として過ごし、音楽奨学金を受けるほどのチェロ奏者で、ピアニストでもあった。その後、エレクトロニック・ミュージックに傾倒していき、2005年に地元スコットランドの名門レーベル<SOMA>よりアルバムをリリース。以降も<Vakant>、<R&S Records>、<Optimo Trax>等のレーベルからリリースを重ね、エレクトロニカ、テクノ、クラシック、ヒップホップといったジャンルを自在に行き来する新しいタイプのプロデューサーとして活動してきた。フロア指向のダンスセットでも、独自のスタイルを持ったライブセットでも、プロジェクトを経るごとに彼の音楽は新しい方向へと進化し続けている。来年には<R&S Records>よりニューアルバムのリリースを控え、10月23日(金)には東京のAIRで開催されるレーベルナイト「R&S Records “IN ORDER TO DANCE” in TOKYO」に出演が決定している。そんな彼に、レーベルとのつながりや、音楽的なバックグラウンドなどの話を聞いてみた。

Interview & Text: Norihiko Kawai (posivision)
Translation: Kumi Nagano  

 

 


——2015年11月に<R&S Records>から新しいアルバムをリリースするとお聞きました、おめでとうございます! 今回はどういった作品ですか? (※リリースは、2016年1月に延期)

ありがとう。「Love Over Will(意思を越えた愛)」というタイトルなんだけど、僕は今、音楽的に過渡期にあって、このアルバムにはそういった状態が反映されていると思う。もちろん、今までのAlex Smokeの要素もありつつ、スタイルはもっとラフに、新しいアイデアが盛り込まれている。実際に「Alex Smokeとはなんだ?」ってことは、誰にもわからないよね。ただ、「音楽だ!」ってことなんだ。よりテクノ指向のものもあるし、別名義Wraetlicのように、より自身のヴォーカルにフィーチャーした音も入っている。そのほとんどは、メロディーや音のテキスチャーをフルに活用して今までにやったことがないものを目指して制作したよ。


——<R&S Records>と契約しましたが、その経緯を教えてください。

自身でやっていたレーベル、<Hum & Haw>をクローズしてから、新しいレーベルを探していたんだ。リリースをするにあたって、僕は音を作ることに専念して、ビジネスサイドのことは他の人に任せたいと心の底から思っていて、<R&S>はそれにぴったりのレーベルだと思っていたのと、<R&S>のアンディ(現レーベルマネージャー)のことを知っていた。ロンドンを離れグラスゴーへ戻り、作り上げていった音楽をどんどん彼らに送り続けた。その中から彼らが「Dust」をピックアップしてくれた。レーベルにとって、僕が近年制作しているトラックをリリースすることは簡単なことじゃないと思うんだ、ジャンルにカテゴライズするのも難しいし、必ずしもフロア指向ではなかったりするからね。でも、彼らは僕がやりたい音楽を自由にやらせてくれたんだ。

 

 

 


——そんな<R&S>の作品から影響を受けてきましたか?

もちろんだよ。影響っていうのは、直接的でないとすぐに気付かないこともあるからおもしろいんだけど(じわじわと影響を受けている)、<R&S>のそれぞれの時代の音楽に影響を受けてきているよ。もちろんAphex Twinからも多大な影響を受けているしね。


——どの時代の音楽に最も影響を受けましたか?

1980年代と同じくらい、1580年代の音楽に影響を受けている。Thomas Talllis (16世紀イングランド王国の作曲家、オルガン奏者)、William Byrd(同じくルネサンスにイングランドで活躍した音楽家)、それにMichael Jackson、同じように影響を受けている。僕がウォークマンで最初に聞いたのは、祖父がくれた80年代のポップスだった。Duran Duran、Spandau Ballet、特にMichael Jacksonの「Bad」をよく聴いたよ。当時は、どういったアーティストかどうかを考えて選んでいたわけではなく、ただ音楽を聴いていただけで、自分がどういったものが好きなのかは分かっていたけど、6歳で好きなアーティストを掘り下げていくなんてことをしなかったんだ。ただ、身の回りにある音楽を聴いて育ったんだ。でも、あの時代のポップスは今でも好きだよ。あと、母が持っていたBeach Boysのレコードもお気に入りだった。「Good Vibrations」と 「Wendy」が1枚になったレコードだったけど、かけ過ぎて聴けなくなってしまった…。その後は、聖歌隊に入って歌うようになり、それが僕の音楽の中心になった。一番影響を受けたと言えると思う。特に初期のポリフォニーという音楽に影響を受けた。それが90年代中頃にテクノやヒップホップと出会うまで続いたんだ。


——最初に買ったシングルやアルバムを教えてください。

Queenの『The Miracle』さ。僕は超クールな子供だったんだ(笑)。これは自分の好みがわかる頃よりも前に買ったものだね。テレビなんかから流れてくる音楽は、ハーモニー、メロディーに富んだ音で、それを自然と耳にする環境だった。次に買ったのは、NASの『Illmatic』。Cypress Hillのファーストアルバムが出た数年後のことだった。これが自分の好みで買った最初のアルバム。同じ年にCarl Craigの『Landcruising』も買ったよ。


——エレクトロニックミュージックを聴くようになったきっかけは何だったのでしょうか?

友達の兄貴が持っていたPlastikmanの『Sheet One』を聴いたとき、これは今まで聴いたことのある音楽とまったく違うと衝撃を受けてとってもエキサイトした。それから1995年頃、BBC Radio 1の「Essential Mix」を聴き始めたんだ。録音して聴いていたけど、Radio 1“Rap Show”と共に、それが音楽収集の元になった。最初、DJがすべての音楽を作っていると思っていたから、彼らは天才だと思っていたよ(笑)。Laurent Garnier、Paul OakenfoldのGoa Mix、Carl Craig、LTJ Bukem、Leftfieldといったアーティストがとくに好きだったけど、彼らの音楽が僕のテクノの根幹を作ったともいえると思う。それと同時に、ジャングルやヒップホップにもハマっていった。Nas、Mobb Deep、Wu-Tang Clan、Goldie (特にTimelessは凄く傑作!)といったアーティストをよく聴いていたよ。



——楽曲制作の環境を教えて下さい。

お金持ちじゃなかったから、シンプルな構成でソフトウェアをベースに曲作りを始め、Mac G4と徐々に小物のハードウェアを集め始めたんだ。少しお金ができたときに、欲しかったNordのモジュラーシンセを買ったんだけど、またお金がなくなって、それを売らないとならなくなったり(笑)。未だにLogicといろんなプラグインを使っている。それと、Kymaとモジュラーも使っているよ。 地味だけど、今まで使っていた他のシンセよりも20倍くらい面白いよ。僕は機材オタクになって他の人のスタジオセットアップや物珍しいシンセをうらやんだりすることはなく、ただ、作りたい音を作れる機能的な機材が欲しいだけなんだ。


——最近とくに気に入っている機材はありますか?

モジュラーとKymaのどちらも気に入ってるんだけど、Kymaは直感的に操作できるのがいいね。どちらも音作りにおいて無限の可能性を感じさせてくれる。また、あえていうとすれば、本物の楽器を使って音を作るということに回帰しつつあるから、チェロをもう一度練習し始めている。それにともなってマイクや他の機材も使っている。あとは、Florence To(http://florence-to.com/)というアーティストと一緒に心理音響的なインスタレーションのプロジェクトを何度かやったんだけど、今そういった空気と体、耳の間に起きるフィジカルな相互作用にすごく興味があるね。



——あなたのライブについて教えてください。

ライブは以前からずっとやってきているけれど、最近になって更にいいできになってきたと言えるね。今まではフロア指向の音楽をプレイしてきたけど、近年自分の音楽の指向や方向性が変わるにつれて、自分の内的世界がより評価されるようになってきたように思うんだ。別名義Wraetlicの活動を通じて、ライブをやることが楽しいと改めて思うようになり、より自由な表現を模索するようになった。新作とともに、新しいライブセットをやろうとしているところさ。ただ、人前で披露できるようになるにはもう少し時間が必要だけどね。今後はもっと、ループした音源(きっかけとなる音)とともにライブをしようと考えている。限られたセットアップの中で、モジュラーもなるべく持っていこうとも思っているよ。

 

 


——ライブセットではどんな機材を使うんですか?

新しい機材とともに、ツアーするために大きなケースを買わないといけないんだけど、個々のパーツはそれほど大きくもないんだ。シングルローのeurorack modules、ヴォーカルのためのいくつかのギターペダル、12年間使っていたものに代わって新しいシーケンサーとコントローラー、それとドラムのためのMaschine。それに必要なケーブルもたくさん持っていくよ。


——ライブを通じてどんなことを伝えたいですか?

Alex Smokeとして、いろんなショーをやっていきたいから、アルバムの楽曲をカバーしつつ、より難解な音楽をやっていきたいと思っているよ。同時にFlorence To(http://www.florence-to.com/ )のビジュアルとともに、よりフロア指向のライブもやっていきたいね。クラブでは僕も踊りたいと思うし、オーディエンスとその気持ちを共有したいんだ。でもダンスフロアでないところでは、音楽と映像をできるだけ融合させたショーをやりたい。今回の東京でのライブでは、残念ながら映像を用意することができないけれど、将来的に観てもらうことができたら嬉しいよ。


——あなたの音楽を聴くと、ジャンルの壁を自在に越えているように感じます。何があなたの音楽の幅を広げたと思いますか?

音と音の間、そのテキスチャーの間にあるものを感じるのが好きなんだ。そして、コントラストをとても重視している。Mixにおいては、ドラムやパーカッション、メロディーやテキスチャーにメリハリやコントラストを感じさせるようにしている。16世紀の合唱音楽を嗜好しつつ、Ryoji Ikedaの音楽も好き、といったコントラスト。お互いがお互いを引き立たせる。年を重ねるごとに、自分の音の趣味に対する自信になったりもするんだ。音楽を聴く新しい方法を開拓するとともに、よく見えてくるものだと思うね。

 

 

——数年前に体調があまりよくなかったとお聞きしました。体調は楽曲制作や活動にどのような影響を与えましたか?

前に君たちに会った時、2010年に渚音楽祭でプレイした時、実はあまり体調がよくなかったんだ。肺がダメになってしまっていて…。でも、収入をツアーに頼っていたためにツアーを中断できなかった。そしてついにメルボルンで肺を壊してしまい、1週間入院治療をした。滞在も伸ばして、そこに住んでいる家族とゆっくり過ごしたんだ。体を壊したことで、一度立ち止まって、自分がやっていることはどんなことなのか、これから自分はどうしていくべきか、考えるいい機会となった。そのときちょうど「ファウスト」(※説明?)のための楽曲も作っていたところで、いろいろ考えた。別名義Wraetlicとしての活動を始めたり、Vokoiといったヴィジュアルアーティストと一緒にやりはじめるきっかけともなった。よく瞑想もするようになって、それが自分の進む道を考える上でとても役に立っているんだ。


——今後の予定について教えてください。

今とてもいい時期で、音楽的にすごく自由な発想ができている。数年後に、作曲とインスタレーションの作品を作る予定があり、そこへ自分の気持ちが向いているし、そのことで新しい方向性がまた見えそうな気がするんだ。映画に関する仕事なんだよ。あとはWraetlicとしてのアルバムも準備しているところだけど、今回は比較的自身のヴォーカルは控えめにして作っているよ。この作品では、昔のAlex Smokeの面影を見つけられないかもしれない。どんな風に仕上がるのか、自分でも楽しみにしているよ。


——日本で待っているオーディエンスにメッセージを。

日本のみんな、僕は本当に日本が好きなんだ。心温かく、真の音楽ラバーがそこにはいるから。Mindgamesで初めて来日してから日本は僕の第二の心の故郷であり、たくさんの素晴らしい経験もさせてもらった。「Labyrinth Festival」「Real Grooves」「渚音楽祭」「TAICOCLUB」、大阪のTriangleと、どこもいいスタッフやオーディエンスがいて、いい思い出がたくさんできた。「日本は素晴らしい!」と多くのアーティストが賞賛しているけど、それは日本のみんなが、頭でっかちになったり偏見を持たずにあらゆる音楽に耳を傾け、楽しもうとする姿勢を持ち、新しいものを受け入れようとする実験的な心(好奇心)があるからだと僕は思う。今回、東京で新しいショーをやろうと思っているから、とても楽しみにしているよ。

 

 

■Alex Smoke Japan Tour Schedule: 2015 OCTOBER
 
10月20日(火)
Dommune(DJ SET)
http://www.dommune.com/

10月23日(金)
R&S Records “In Order to Dance”in TOKYO(Live)
http://www.clubberia.com/ja/events/243196-R-S-Records-IN-ORDER-TO-DANCE-in-TOKYO/

10月24日(土)Gypsy 京都(Live)
http://www.clubberia.com/ja/events/243764-GYPSY-progression-with-Alex-Smoke/

 

 


- Event Information -

タイトル:R&S Records “IN ORDER TO DANCE” in TOKYO
開催日:2015年10月23日(金)
時間:22時〜
会場:代官山AIR
料金:前売  2,500円 当日 3,500円
出演 : Alex Smoke -LIVE (R&S Records | Soma | Vakant from UK), Lakker - LIVE A/V (R&S Records | KILLEKILL | from Berlin/Ireland), DJ K.U.D.O (ARTMAN | Qooki Records), Shhhhh (Sunhouse),  Nori (posivision), Greg Hunter- LIVE (Apollo | Subsurfing | Waveshaper from UK), Hataken - LIVE (TFoM | Waveshaper), Katsuya Sano (Ibadan Records | from Berlin), DJ Doppelgenger (GURUZ | ASYLUM), PortaL (Soundgram | PLLEX), K.U.R.O. (Psyristor Trax), 電子海面,  Yoshinori Saitou, Z_Hyper, Hataken (TFoM | Waveshaper), Ethan Drown Hulburt (Live video modular), ngt. (rebelbase)

■clubberiapage
http://www.clubberia.com/ja/events/243196-R-S-Records-IN-ORDER-TO-DANCE-in-TOKYO/