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Yabugarashi - 絵とトラック制作、そしてレコードへの想い

MONといいます。ペインター/DJ/トラックメイカーで、楽器もいくつか演奏します。DJ/ソロライブ「Yabugarashi」、ペインティングデュオ「Doppel」、ダブバンド「Echo Mountain」と、複数の名義と共に、画家としては本名の「Koutaro Ooyama」を名乗っています。 とくに理由なんてないのですが、単純に名前を考えるのが好きなんだと思います。時折、言葉からインスピレーションを受けることもあるし、元々バンドを多数やっていたので、名前を考えて盛り上がるノリが身に付いてしまっているのかも。たとえばヤブガラシは雑草の名で、薮でも枯らすといわれている「キングオブ雑草」なんですよ。とても生命力があって見た目が汚らしい上に、周りの植物を枯らしてしまうものだから、園芸家達から忌み嫌われているのですが。僕は、おおよそ嫌がっているのは人間だけで、自然の生態系の中では役割があって存在しているように思えたんです。そんなたたずまいに、とても励まされた瞬間があって、この名をつけました。 もちろんあります。レコードに対してとても強いこだわりを持っています。あの圧倒的な音質と、モノとしての存在感に恋しているんですよ。僕は「Yabugarashi」でのリリース以前に、「Echo Mountain」で2枚のCDアルバム、当時参加していた「The Henircoots」で1枚のCDアルバムと、ほかに参加していたバンドの音源を含めて数枚のコンピレーションCDに参加しましたが、CDの役割はここ10年で大きく変わったように思います。CD-Rが浸透してから、現在CDは音源というよりも、データを運ぶ上で使う一時的な保存メディア、といった役割で捉えられていると感じます。CDを購入した人は、自宅でPCにデータをコピーし、iPodやそのほかのモバイル機器で音楽を楽しみます。音楽をデータで直接購入しているユーザーにとっては、CD音源は簡単に省くことのできるフォーマットでしょう。レコードで、このような現象は起こりえないと考えます。あの黒いビニールは、超細かい溝が彫り込まれた造形物であり、彫刻なんです。レコードを購入したあと、その音質をデータに落とし込むユーザーにとっても、レコードは省くことのできないフォーマットですから。そうした意味でも貴重な存在だといえます。こんな風に僕はレコードを愛していますが、データでのDJプレイに対して懐疑的なスタンスではありません。データの音質/音圧は年を追うごとに高まっていますし、安定してきています。データでしか再現できないミックスも考えられるし、常に可能性を感じています。それでも、僕は自身が愛情を込めて作曲した音楽を、レコードでリリースすることに深い喜びを感じています。 制作の場合、最初の段階では意識的にあまり違いはありません。最初にあるのはインスピレーションで、それは映像でも音でもなく、何者でもない感覚なので。鼻の奥や目の奥、胸の奥あたりのムズムズしたものが、なんらかの感情のフラッシュバックと共に現れたのを、絵か音に落とし込もうとするんですが、具体的にどういう風にやっているのかは、自分でも謎です。謎は謎のままにおいておくこともまた、信条ではありますが。絵と音は、形になり始めたときの、ディティールを詰めていく作業がとても似ています。色彩と音色、EQと明度差、配置、ディティールの詰め方とコンプの具合など、すべてはバランスとグルーヴ、抜きと刺しの感覚は共通しています。ただし、テクニカルな要素を軸に制作に入った場合や、実験的なアイデアが主体になった場合は、絵と音の作業はかなり違ったものになります。それでもバランスとグルーヴの感覚や詰め方は共通していますが。決定的に違うのは時間軸があるかないかでしょう。これは考え方がぜんぜん違うし、それによって生まれるアイデアも変わってきます。絵において時間軸を考えるとすれば、巨大な壁画や長い通路など、移動しながらでないと全体が見通せない場合に、見る側の移動する時間/距離を考えて制作しますが、音の時間軸とは質が違います。制作とは少し話がずれますが、以前に大阪のGalaxyGalleryでやった個展「in / out」で、ライティングのYamachangとコラボして、照明の色を時間軸で変化させていった夜があったんですが、こいつはとんでもなくおもしろかったです。色が常に定まらない絵!ディティールすら変化して見える強烈な体験でした。制作の段階からこの環境を再現すれば、また新しい感覚で作業できるかもしれません。それから、制作とライブはまったく別ものです。DJとライブペイントもまったく質の違うものだと思います。 10年後だと自分は40歳です。作家性は常に流動的に変化していくものだと思うので、どんな絵や音楽を作っているかわかりませんが、ともかく、魅力的な中年おじさんになっていたいですね。 2010年春までに、全編自分で制作した楽曲のミックスCDを発表する予定です。また、個展「in / out」での表現をさらに掘り下げたいと考えています。