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次世代エレクトロニック・クリエイターオーディション「INTERLUDE from TDME」グランプリ“Yuri Urano”スペシャルインタビュー

取材・文:松永尚久


 インダストリアル・テクノのディープさとイノセンスの中に、自然のノイズや自身の歌声など有機的な要素を織り交ぜた甘美なエレクトロニック・サウンドで、先日開催されたオーディション「INTERLUDE from TDME」で見事グランプリを獲得した、Yuri Urano。彼女の音楽遍歴から、オーディション、そしてミュージシャン・作家として切り拓かれた未来について聞いてみた。
 

奥底にダークで退廃的なものを抱えている音に共感した
 
──まずは、音楽を始めたきっかけを教えてください。
 
1990年代に大ヒットしたJ-POPの女性シンガーに憧れて、歌手になりたいと思っていたんです。その後専門学校に進学してレッスンを重ねていくうちに、作曲の勉強をスタートするようになってから、もっと視野を広げて音楽に関われる仕事をしたいと思うようになりました。一時期は、作曲家になろうと思った時期もあったのですが、元ロックマガジンの編集長であり、音楽評論家の阿木譲さんに出会ったことで、いろんなサウンドを教えていただき、今にたどり着いたという流れです。
 
──ミュージシャンを志した当初から、ひとりで活動していこうと?
 
私は、90年代の日本のロックバンドが大好きだったので、当初はそれに近い音楽性で活動できたらと思っていたのですが、気の合うメンバーを探すのって、時間がかかるじゃないですか。手っ取り早く、自分ひとりで作って見ようと思って、気づいたらそのまま突き進んでいたという感じです(笑)。

──インダストリアル・テクノやアンビエントなサウンドからの影響を感じるサウンドになっていますが、この音を作るにあたって影響を受けたミュージシャンやシーンがあれば教えてください。
 
自分が好きで聴いていた、90年代のJ-POPの影響は少なからずあると思うんですけど、今の音楽スタイルにおいては、英国のテクノレーベルであるMODERN LOVEや、ベルリンの実験的なテクノシーンの影響が強いと思います。
 


──どんなところに刺激を受けましたか?

私の性格に根暗なところがあって(笑)、このシーンの音を作っている人も、一見すると明るくてハッピーそうなんですけど、その奥底にダークで退廃的なものを抱えている印象なんですよ。そういう部分が、私に共通するなって。だから聴いていて心地がいい気がします。
 
──海外にはよく行かれるんですか?

留学はないんですけど、旅をするのが好きで、これまでヨーロッパには3回ほど訪れています。1ヶ月くらい各地をめぐっていたこともありました(笑)。なかでも、ベルリンはいろんな国や地域から人が訪れているし、有名なクラブも多いので、刺激になることがたくさん。なので、ヨーロッパに行く時はよく立ち寄る場所です。
 
──海外でもパフォーマンスされたことがあるそうですよね。
 
そうですね。友人に誘われてDJをしたり、カセットを発売していただいたこともあります。
 
──また、フリーのモデルとしても活動されているという話も聞きました。これも海外にて?

これは日本のみです。知り合いにファッション関連で仕事をされている方がいて、そのお手伝いとしてという感じですが。
 
──いろんなことに挑戦されているんですね。
 
自分が面白いとか、やってみたいと思ったことには何でも挑戦したいと思っています。そこで、何か刺激になることも生まれるのかなって。
 
──昨年末にはアルバム『Selfish & Anchor』をリリースされていますね。
 
このアルバムは、一昨年から去年の2年くらいの間に完成した楽曲を集めたものになります。自分が今好きなものを詰め込んだ内容という感じです。
 
──タイトル曲「Selfish & Anchor」をはじめ、楽曲はインダストリアルで無機質なエレクトロのビートに、波音など自然が作り出す有機的なものをミックスさせた、独特の世界観ですね。
 
楽曲を作る際は、サンプリングしたものを構築させて行くやり方が多いです。だから、旅に出た時は素材として、海の音を録音したり、街のノイズも集めたりするようにしています。それをビートにしたり、ソフトシンセに変換したり、自分の声をふわっと入れたりしながら、完成させる感じです。とにかく、その時にいいなと感じた要素を取り入れています。
 
──ボーカルも印象的ですよね。Sadeのようなアンニュイさやミステリアスを感じました。
 
ありがとうございます(笑)。以前はシンガーを目指していたのですが、一時期曲作りに専念しようと辞めていたんです。でもある時、後輩からライブに出演してほしいというお願いをされて歌ってみたところ、それが独特で面白いという反応もいただいたので、自分の作品にも取り入れてもいいのかなって。元々歌うことを目指していたので、今はいい結果になっているのかなと思っています。
 
──でもボーカルを前面に押し出すのではなく、曲を構成するひとつの「要素」として扱っていますよね。
 
はい。私にとって声はあくまで「素材」ですから。

 



オリジナリティを認めていただけるような仕事をしたい

──そんなアルバムの発売と同時期に、次世代エレクトロニック・クリエイターオーディション「INTERLUDE from TDME」に応募されましたね。
 
昨年は、とにかく自分の目についたことには何でも挑戦しようと思っていて、その中でSNSを通じてこのオーディションのことを知りました。今の自分が、どれだけ世間に通用するのか?試してみたかったんですよね。
 
――オーディションには、他にもいろんな応募者の方がいらっしゃいましたが、他の方々の楽曲を聞かれたことは?

フューチャーベースとか、皆さんが聴きやすいような曲が多いなか、私だけそういうことを意識していない感じがしたので、取り残されているような気分になりました(笑)。だから、グランプリをいただけるなんて、想像もしていなくて、しばらく言葉が出なかったほどです(苦笑)。
 
──他にはない音にエレクトロミュージックの未来を感じて、グランプリを獲得されたのだと思いますよ。
 
だと嬉しいですね。最近は、自分の好きな音を追求したいという気持ちだけで制作していて。それが、このグランプリによって認められたような気がしています。
 
──グランプリ獲得後、周囲に変化はありました?
 
クラブにはパフォーマンスはもちろん、遊びに行くことも多いんですけど、その度に声をかけられる機会が多くなりました。知らない方からも「グランプリおめでとう」って。とても大きな意味のある賞だったんだなって、改めて実感しました。
 
──また、ご自身の音楽に向き合う心境に変化も?
 
そうですね。今後はミュージシャンとしてだけでなく、作家としても活動の幅が広がると思うので、求められる音を作らなくてはいけないこともあると思います。それでも、今まで通り自分の好きな音やエッセンスを取り入れられたら。私のオリジナリティを認めていただけるような仕事をしたいです。



グラフィックとの融合に挑戦した「Balle」のミュージックビデオ(2017年2月9日リリース)。


──また、これまではYullippe名義で楽曲を発表していることが多い印象ですが、今後はYuri Uranoとして作品を発表していくそうですね。
 
今後、海外での活動も考えるとYullippeだと発音しづらい部分などがあるので、本名にした方が覚えられやすいのかなって。でも、ひとつの名義に統一するつもりはないです。2つの名前を持つことによって、幅広い音楽を発表していけそうな気がするので。音の線分けは、これから考えていけたら。
 
──海外の活動も視野に入っているんですね。TECHNIQUEによる世界デビューのサポートも決まっていますが。
 
とてもいい機会を与えていただいたので、国内外問わず、いろんな人やシーンの人たちに聴いてもらいたいです。コラボレーションした作品とかも発表できたら面白そうですね。
 
──とくにコラボしたいミュージシャンはいますか?

ちょうど先日ライブを観に行ったFoster the Peopleとか。彼らのようなバンドみたいに、クラブミュージックと違った音楽の人たちとどういう化学反応が起こるのか試してみたいです。
 
──気になるシーン、活動してみたい場所はありますか?
 
気になるのは、ロンドンですかね。多彩な人やシーンが溢れていますし、好きなレーベルも多いです。あと、いろんなことに挑戦できそうな気がします。特に行ってみたいのは、クラブの「Fabric」。前回ロンドンを訪れた時は行けなかったので。そこでパフォーマンスができるようになれたら最高ですよね。
 
──海外のクラブカルチャーと、日本の雰囲気って違いますか?

違いますね。例えばベルリンだと、平日の夜でもオープンしていて、みんな居酒屋に行くような感覚で遊びに出かけていますよ。日本でも、もうちょっとハードルが下がればいいのにとは思いますが。
 
──クラブという文化を、より浸透させる音楽を作りたいという思いは?


戦略的に誘導させるというよりは、私が純粋に作ったものによってクラブって面白そうと思っていただいて、自然に足を運んでいただけるような音楽を作りたいです。
 
──最終目標ってありますか?

ゴールとかはとくにないです。でも、実現させたいことはたくさんあります。作品をいっぱいリリースしたいし、海外でもライブをやりたいし。とにかく、今思ったことを丁寧に挑戦して、それを積み重ねていくだけです。
 
──次の作品への構想はありますか?

日常的に楽曲は制作しているというか。アイデアは溜まっています。なので、できるだけ早く発表できたらと思います。
 
──楽しみにしています。ところで、優勝賞金20万円の使い道は?

実はパソコンの買い替えで、ほぼ使い果たしました(笑)。おかげで、制作作業がサクサク進むようになりました。
 
──Pioneer DJのサンプラー「TORAIZ SP-16」も贈られました。
 
とても使いやすいですよね。実は私機械オンチで、新しい機材を使いこなすのに何日もかかるんですけど、これは半日くらい使用していたらトラックみたいなものができました。初心者の人にもおすすめの機材ですね。私も今後、制作する際には大いに活用したいと思います。



■Official Web Site
http://yullippe.tumblr.com/
 
■Bandcamp
https://yullippe.bandcamp.com/



 
https://www.pioneerdj.com/ja-jp/product/software/wedj/dj-app/overview/