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恐るべき新人たち
DFT

取材・文:Yanma(clubberia)
写真:Official、Satomi Namba(clubberia)


 “すごいアーティストを見つけてしまった!友人に教えたい”
 こう思える瞬間は稀にやってくる。そして共有したものが共感を得られたときの快感は、みなさんもご存知だろう。新連載「恐るべき新人たち」は、友人に教えたくなるようなアーティストを紹介するもの。第一回目はDFT(Don’t Fxxkin' Touch)を取り上げる。
 
 DFTはviviとmimiの日本人女性2人組のアーティスト。2016年11月にファーストアルバム『STORY TO TELL』を自身のレーベルDAT SLICKからリリースしている。楽曲は、リズミカルで耳に残るラップと攻撃的なベースミュージックが特徴で、一般的にはトラップミュージックと表現されるだろう。作品のクオリティーも然ることながら、驚かされたのはアルバムの収録曲をすべて使用して作られたショートムービだった。15分に及ぶショートムービーの内容はこうだ。
 
 小学生のころのviviとmimi。極道の世界に身をおく彼女たちの父親が、ある日ヒットマンに殺される。ヒットマンから逃れるため東京へ向かった二人。月日は流れ彼女たちは大人になり、再びあのヒットマンと出会うこととなる。
 
 監督を務めたのは、世界的な評価を獲得している映像作家の中根さや香。撮影はフィルムで行われ、キャストには格闘家のエンセン井上や黒石高大を起用。もはや短編映画だったのだ。さらに役者のセリフはアルバム収録曲のラップがリップシンクで表現されていることも引き込まれる要素だ。
 
 ネット上にはDFTの情報はほとんどない。いったい彼女たちは何者なのだろうか? 東京・青山にある彼女たちのスタジオを訪れた。
本稿を進める前にショートムービを一度ご覧いただきたい。

 


——まず、アルバム『Story To Tell』のリリースと同時に、大掛かりなショートムービーを作り公開したのはなぜですか?
 
mimi:『Story To Tell』の音と映像は私たちの作品であり、同時にビートメイカーとしてのカタログなので、今までやってきたことを最大限に表現したかったかんです。初めて出す作品だったのでやりたいことを思う存分アウトプットしたかった。自分たちのやってる音楽とクリエーションで、要するに“Just wanna get a lot of job and make money”ということですね。
 
——ショートムービーは、viviとmimiが主人公となりストーリーが進んでいきますが、なぜこの内容になったのですか? プロフィールには“幼少期より2人で過ごした数奇な生い立ちが”とあったので、それも表現されているのかなと思いました。
 
mimi:映像を作る前に映像作家の中根さや香さんと話をしたら、ああいった作品になったんです。そしたら、さや香さんのファンタジーが炸裂して。
 
——どんな話を?
 
vivi:自分たちの生い立ち、タフな暮らしをしてきたことなどですね。映像はハーフリアルストーリーのようなイメージです。何が本当で何が嘘かを説明するとファンタジーを壊すことになるので言いませんが、あの映像を見てみんなが想像を膨らましてくれたら面白いかなと。
 
mimi:私たちの生きてる想いが詰まってます。ああいったVシネマみたいなものは絶対やりたかったんです。
 
vivi:ヤクザ映画って主人公はだいたいが男の人ですよね。でもDFTのプロダクションはすべて私たちがプロデュースしています。それを印象付けるためもあって、女の子が主人公で、しかも戦っちゃう。私たちのビジョンをさや香さんの才能が爆発してかたちにしてくれた。
 
——ストーリーもあるし質感もいいから、見入ってしまいすよね。
 
vivi:フィルムで撮ったからですね。あの色が上がってきたときには感動したよね?
 
mimi:感動した!
 
vivi:さや香さんがエンセンさんの戦いのシーンをスタジオから送ってきてくれて。「本物のVシネマだ!」ってテンション上がりました(笑)。
 
——あの映像の効果はいかがですか?
 
vivi:感度が高いところに届いたんだな、という印象です。ファッションシーンにいる人が「知ってる」って言ってくれたり。でも一般には全然リーチしてないと思います。
 
——でも海外からの評価は高そうですね。
 
vivi:NASが経営してるMass Appeal Recordsもインタビューしてくれたんですよ。「こんなこと普段はしないんだぞ」とか言ってましたけど。私がわざと拙い英語で連絡して。「Japanese Girls Yakuza Movie Very Swaggy(日本の女の子のヤクザ映画、超イケてる)」とか書いて(笑)。あと5月にベルリンとLAの映画祭にノミネートされていているので行ってきます。
 
※ショートムービーは下記にノミネートされている
「Berlin Music Video Awards」http://www.berlinmva.com/
「LA Independent Filmfestival Awards」http://www.laiffawards.com/



写真左:mimi 写真右:vivi


イメージは女版 The Neptunes
見た目とは裏腹にギークな二人

——アルバム『Story To Tell』を聴いたときに、日本のマーケットは意識されていないように感じました。
 
vivi:というよりあのアルバムは、作家としてこういう音楽を作れますよっていう私たちのカタログなんです。
 
——DFTの情報はウェブに少しあるくらいなので、作品を聴いて想像を膨らませていくと、二人の活動の拠点は海外なんじゃないか? 海外での生活がもともと長いんじゃないか? 作品からはアメリカを感じさせる空気感が漂っていていたから。
 
vivi:私も彼女も小さいころから英語を習ってたので、コミュニケーションは問題なくできますよ。住んだ経験はなく、海外へは行きたいときに行くスタンスです。mimiは海外のコライトキャンプ(いろいろな人が集まって共同で曲を作る取り組み)に行くので日本と海外の生活は半々でしょうか。
 
mimi:私は小さいころからショートスパンで何回も留学してましたね。アルバムの制作で、二人でアトランタ行ったり、ラスベガス行ったり、LA行ったり。
 
——作品ではアトランタの次世代ラッパーK19とReno Jr.を起用していますよね。なぜ彼らを?
 
vivi:私はEQマニアなので欲しい成分ががっちり見えてて。“若い黒人の鼻腔感のある声”っていう限定的なイメージがあって。そのイメージにぴったり合う彼らをオンラインで見つけたんです。4回くらいメールしたんですけど全然返信がなくて。でもどうしても彼の声が欲しくて、初めて「Best regards(敬具)」って言葉をメールで送りました。そしたら返事があって、やれることになって。オンライン上でのやり取りはお金がかからなくていいけど、アトランタでリアルな音楽を作りたいって盛り上がって、二人で行きました。
 
——EQマニアなんですね、見た目によらない(笑)。
 
vivi:mimiはシンセの話をしたら、ややこしいぐらい話し出しますからね。彼女にシンセとプラグインの話は振らない方がいいですよ。
 
mimi:シンセにはまってから曲を作り始めたんですよ。
 
——DFTでの役割分担は?
 
mimi:viviがブレインで、私がトラックメイカーです。もともと女版のThe Neptunesになりたかったんですよ。Chad HugoとPharrell Williamsみたいな。
 
vivi:Chad Hugoってあまり出てこないじゃないですか。あれをずっとイメージにしてました。
 
——DFTとして活動したのはいつからですか?
 
mimi:一緒に音楽を作りだしたのは8~9年ぐらい前ですね。viviがずっと音楽活動してたので、いろんなスタジオとか連れて行ってくれて、私も勉強しだして。当時はまだ私は大阪で、viviは東京にいたので行き来しながら。
 
vivi:mimiは5〜6年前に東京に越してきて、トラックメイクを本格的にスタートしたよね。名前をDFTにしたのは4年ぐらい前。
 
mimi:そこからオタク人生が始まりましたね。朝から朝までずっと曲を作ってましたから。
 
vivi:二人とも集中力がやばすぎて。膀胱炎に3回なりましたからね(笑)。それで救急車で運ばれて。オタク女子あるあるですね。最後はハンダ付けにまで手を出してましたから。
 
——ほんと見た目とのギャップが(笑)。今の制作環境を教えてください。
 
mimi:Ableton Live 9使ってます。もともとArturiaとかのシンセも使ってたんですけど、今はほとんどソフトシンセですね。
 
vivi:コンプとかもハードは買ってないもんね。



幼馴染からパートナーへ。
二人で世界のビッグマーケットに
挑む

——そもそも二人はなんで一緒に曲を作るようになったのですか?
 
mimi:私たち、歳は離れているんですけど、もともと幼馴染みたいなにすごく仲が良かったんです。私はviviの姿を見て音楽活動に憧れた。音楽をやりたいと思っていたけど、うまくいかないことが続いて「人生マジFackだ」みたいな感じになってて、そのときにviviが「死ぬ前に一回ドンと花火上げてから死のう!」って言ってくれて。それから一緒にやり始めたんですよ。
 
vivi:私はもともと関西のヒップホップシーンで活動していました。例えば、SHINGO★西成さんやEVISBEATSさんといった人たちのフィーチャリングとして歌ってました。そこからメジャーレーベルで作曲家として活動するようなりました。mimiも以前はテクノDJをしてたんですよ。
 
mimi:心斎橋のTRIANGLEとか、Live&Bar 11(オンジェム)でプレイすることが多かったですね。ちょうどエレクトロが流行ったときです。DJを始めたのは高校性のときにターンテーブルを買って、そのときはヒップホップのDJとして。
 
——今はクラブでDFTの名前を見ませんが、ギグをしていないのは意図的ですか?
 
mimi:あまり露出しないようにしてるんです。まずは作曲だけで勝負したかったので。作曲に関しては中途半端にしたくなかったんですよね。
 
vivi:集中して作曲できる時間をちゃんと取った、という感じですね。でもこの先はやろうかって考えてます。
 
——クラブでのパフォーマンス楽しみですね。すみません、話がそれてしまいました。二人が一緒に曲を作るようになったのは、viviさんがmimiさんを誘った。viviさんは以前、メジャーの作曲家をしていた…
 
vivi:そうですね。それでDFTをスタートする4年くらい前にワールドクラスをやってみたい、育ててみたいと思うようになっていて。mimiなら世界を狙えるパートナーだと思ったんです。mimiは私から教わったって言うけど、私は教えてませんよ。独学なんですよ。最初の作品からやばかった、天才だと思いました。日本人が越えられないLOWの壁を越えて行ったんです。完全に4年前に越えられて…。しばらく拗ねた、卑屈なviviちゃんでした。
 
——最初から世界を目指してたんですね。だからいい意味で日本人ぽさがDFTの曲にはなかったんですね。
 
vivi:テニスの錦織さんとか、サッカーの本田さんみたいに、日本人が世界で何かするってすごい夢があることだと思っていて。mimiはまた違う目的があるかもしれないだけど、そういうチームをやりたいし、夢を与えることができたら幸せです。
 
mimi:トラックメイクを始めたころから、絶対アメリカに行きたいと思ってたんです。アメリカのシーンで認められる音楽を作りたくて。ビッグマーケットだと思ってるからこそ、闘う意味がある。
 
vivi:チャレンジって面白いじゃないですか。せっかく生まれてきたんだし、バカみたいなでかい夢を見たい。叶わなくても恥ずかしくないし、それがやりたいことですから。
 
——ビシっと決まったところ申し訳ないのですが、このスタジオに来てからずっと気になることが…あのマネキンはいったい…?
 
mimi:アンジェラっていう名前のアナログシンセです。
 
vivi:私がギークに走りすぎた時期に、自作シンセの人たちと仲良くしてまして。サンプリングとかで使ってますね。
 
mimi:めちゃくちゃ太い音鳴りますよ!


DFTのスタジオ。写真右にあるマネキンがアンジェラ。


作品情報
タイトル:STORY TO TELL
アーティスト:DFT
発売日:2016年11月16日(水)
価格:1,620円(税込)

■iTunes
https://itunes.apple.com/jp/album/story-to-tell/id1173391070

■DFT公式サイト
http://dft.tokyo/