clubberiaが選ぶ、2014年20枚の名盤

このアルバム部門に関しては、他のアワードとは異なり、clubberia編集部で2014年にリリースされた作品の中からオススメしたい作品を20枚ご紹介。2014年を振り返ってみると、ベテラン勢の底力を見た1年ではなかっただろうか?Aphex Twinは13年ぶり、D'Angeloは15年ぶりに新作をリリースし世間を賑わせ、Moodymann、Theo Parrishも久しぶりのアルバム作品をリリースした。また、アワードに選んだ作品の多くに、ベースミュージックの要素を取り入れた作品が多いのも特徴的であり、現代的なサウンドを構成する上で非常に重要な要素なのだろうと感じた。今回ピックアップする20枚の作品は、ジャンルを問わずオススメできるので、ぜひチェックしてみてほしい。(表示順:A to Z)

Text : yanma (clubberia)

Andy Stott / Faith In Strangers

Modern Love / Octave-Lab

サンプルを聴いては、付箋に5点満点で評価をし一言コメントを添えているのだが、後で見返してみると「5」「恐怖」とだけ書いてあったのを見て思わず笑った。どれだけ怖かったのだろうと、聴き返してみてもその感想が変わることはなかった。ミニマルダブ~ディープテクノの超優良レーベルを代表する最重要アーティストであるAndy Stott。BurialやJames Blakeと同じようにジャンルを超越し、様々なシーンでリスペクトを受ける稀有なアーティスト。重低音のベースサウンドもさることながら、砂のようなざらつきのある独特なサウンドは、鼓膜をも通りこし眼球の奥まで刺激してくる。まるで音そのもの自体が体の中を浸食してくるようだった。

Aphex Twin / Syro

Warp / Beat Records

想像していたのとは裏腹に、正統派なイメージを受けたAphex Twinの作品。音楽の種類も多種多用となった今日において、エポックメイキングな音楽というのは、そうそう出てくるものではない。しかし、こう考えるのはどうだろう?時代がようやく彼に追いついたのでは?高速ブレイクビーツから静謐なアンビエントまで、現行の音楽は、数年前に彼が頭の中で終わらせていたのではないかと思った。正統派と書いたが、彼らしい音ではあることには変わりなく、Aphex Twinとしての作品を13年楽しみにしていたファンにとっても申し分ない作品だと思う。

Burnt Friedman, Daniel Dodd-Ellis / Cease To Matter

Nonplace

余白や間で表現されたBurnt Friedmanのミニマルダブサウンドは、眠りに落ちそうな瞬間に似ている。心地よい間で入ってくるベースサウンドやディレイが意識を奪っていく。The Labyrinthでも来日を果たす、ミニマルダブ/エクスペリメンタルの第一人者であるBernd Friedmann。今作では、ゲストにDaniel Dodd-Ellisを迎え、彼の声と自身の作り上げるアーティスティックなエレクトロニックサウンドを見事にブレンドした内容となっている。

Caribou / Our Love

City Slang / Hostess Entertainment

どことなく曖昧で薄くありながら、カラフルでいてポップ。ジャケットのデザインイメージそのままの音楽となった本作。カナダの天才Dan SnaithことCaribouが、大ヒットとなった前作『Swim』に続き新境地に挑んだ。ダンスミュージックに接近した前作から、ダンス的なビート感と本来の持ち味だったメロディーとをさらに絶妙なバランスでミックスしており、調和が取れたビートとメロディーの世界は、これほどまでにも心地よいものだと気付かされた。

cro-magnon / V

Jazzy Sport

ワインに詳しいわけではないが、素晴らしいワインにはきっと彼らのような豊潤さを感じ取れることだろう。オリジナルアルバムとしては、2009年の『4U』から約4年ぶりのリリースとなった本作。ソウル、ジャズ、ファンク、ディスコ、アフロ、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ハウス、テクノ、etc... それは、全てのジャンルのうま味や彼らが訪ねた土地度地の養分を見事に合わせたかのようであり、今まで以上に奥深い味わいを感じさせてくれる成熟した音楽としてパッケージされていた。まぎれもなくcro-magnon史上最高傑作ではないだろうか。

D'Angelo / Black Messiah

RCA Records / Sony Music

待望とはこれのことを言うのだろう。15年の時を経てD'Angeloのファルセットボイスで新しい音楽を聴けた。今回のアルバムはそのレコーディングからミキシングに至るまで、ヴィンテージ機材を駆使し、全て完全なるアナログ手法で制作されたのに加え、Questlove、Pino Palladino、James Gadsonといった豪華ミュージシャン達のサウンドが、D'Angeloの音楽を、より官能的に艶やかに進化させた。

Douglas Greed / Driven

Bpitch Control / Octave-Lab

まるでコンピレーションかと思うほどの多彩性を魅せた本作。Freude Am TanzenやAckerなどのレーベルからのリリースで人気のDouglas Greedが、ベルリンの女帝Ellen Allienによる人気レーベルBPitch Controlへ移籍してのアルバム。ボーカルをフィーチャーし、BPMの縛りもなく音楽性の高い楽曲が多い。コンセプチュアルなアルバムという感じはなく、やりたい音、出したい音というものを素直作りあげているような正直なアルバムだ。

Edward / Into A Better Future

Giegling

現行ディープハウスの最高峰があるとしたら、この作品だろう。ベルリンハウスの異人にして天才EDWARDによるセカンドアルバム「Into A Better Future」は、EDWARDの音楽性を十分に堪能できる傑作アルバムだった。得意のメランコリックな色彩に、グルーヴ感抜群のミニマルハウス。そして耳障りの良いノイズが漂うドローン。さらにはブレイクビーツまでも組み込んでくるが、常に冷静さを感じさせる温度感も彼独特なものだ。

FKA twigs / LP1

Young Turks Recrdings / Hostess Entertainment

世界が待っていた新たなる才能FKA twigsが遂にアルバムデビューを果たした。その衝撃は、James BlakeとBjorkを同時に初めて聴いたと想定したものに匹敵する。エレクトロニクス、R&B、ポップ、アブストラクト、アンビエントの要素を一体化させ、なおかつ彼女特有のエロスを孕んだ楽曲。誇張表現ではなく、本音で唯一無二という言葉が使えるアーティストだ。その神秘性からFKA twigsが、本当にこの世に存在するのかとすら疑問に思うほどである。

Flying Lotus / You're Dead

Warp Records / Beat Records

“無限に広がる死後の世界”をテーマというよりも、無限に広がるフライロのインスピレーションには、ただただ脱帽だ。ジャズやヒップホップに回帰しながら、先鋭的なブラックミュージックへ完全に振り切った作品。なぜ、こんなにも壊せるのか?しかしなぜ形になっているのか?今世紀最大の問題作という言葉もあながち間違いではないが、ジャズがいかに自由な音楽かということが分かる作品だ。

JMSN / JMSN

White Room Records

ナルシスティックな音楽性は少し聴くと分かって頂けると思う。そして少し病的な雰囲気も感じ取れるだろう。彼の音楽をグラフに表すと、とてつもなく歪なものが描けそうだ。それは、万人受けするものではないと思うが、好きな人には、一緒に堕ちていく音楽のように聴こえ彼の世界観から抜けられないはずだ。ファーストアルバム、セカンドアルバムは、ビートがかなり強調されたR&Bにアンビエントが加わったイメージだったが、本作では、アンビエントな要素はそのままにロック的な解釈が加えられ、より間口を広げたようなイメージがある。

Kyoka / IS (Is Superpowered)

Raster-Noton / p*dis

自ら色彩を破棄し、モノトーンで統一させたような濃密な音空間がこの作品には広がっている。ドイツのの紅一点、スウィートカオスクリエイターKyokaの待望のフルアルバムは、そんな作品だ。まるで電気の振動が感じられるような太いベースライン、ノイズとぶつかり合うような実験的でカオティックな様相を見せながらも、フロアにも対応するダンサブルな仕上がりとなり、数少ない「踊れる実験音楽」としてまとめられている。

Lawrence / A Day In The Life

Mulemusiq

謎というのは、人を惹き付ける。この作品に惹き付けられるのは、陽とも陰とも言えない不思議な感情だ。テクノ、ハウスに絶大な人気を誇るLawrenceによるアンビエント作品である本作。気負いの無い日常の「ある一日」をテーマにしており、たしかにリラックスはしているが、どこか物憂げなのだ。Lawrenceの感性は日常をどのように捉えているのだろう?しかし、繊細で透明感のある音色使い、最小限に抑えられたリズムにより、彼のポテンシャルを最大限に生かした新境地となった作品。

Marter / Songs Of Four Seasons

Jazzy Sport

柔らかく温かく、こんなにも優しい音楽は聴いたことないかもしれない。この収録曲達は、まるで地球という生命体の鼓動や息づかいをMasateru YamauchiことMarterという1人アーティストの体を通ることにより変換され、私たちの耳に届いているようだ。ファーストアルバムでは英語の曲がほとんどだったが、一変して全て日本語で歌っていることにより意味が直接入ってくるというのも嬉しい。そして、日本語の曲をこんなにも美しく歌えるアーティストは他にいないのではないだろうか。

Moodymann / Moodymann

KDJ

色気にも似たドープで豊潤なブラックネスが閉じ込められている。いや、あまりにもセクシーであるが故、いたる箇所から、その芳香がこぼれ出しているようだ。MoodymannによるMoodymannという作品名が物語るよう、彼の集大成である作品。2004年の「Black Mahogani」以降のリリースは、ほとんどがヴァイナルだったため、ようやく一般リスナーにも彼の音楽を楽しめる媒体でのリリースとなったのだ。ソウルやディスコからのコラージュとサンプリング、手に入らなかった人気トラックも再収録されたMoodymannサウンドが収められている。

N'gaho Ta'quia / In The Pocket

disques corde

足が取られそうなほど粘度質が高く、黒く塗り潰された音楽に日本の血というものを感じ取れなかった。外国人だから、日本人だからという表現は、あまり好きではないが、私が知っている日本っぽい音や音描写というものを感じれない作品であったのは事実だ。謎の仮面の男であるN'gaho Ta'quia(ンガホ・タキーア)を、sauce81ことNobuyuki Suzukiと知らず「またすごい外国人が現れたなあ」と特質なアルバムに惚れ惚れしていた。これほどまでのブラックネスなものに、なかなか出会えるものではない。

Pharrell Williams / Girl

Columbia Records / Sony Music Entertainment

ご存知の方もほとんどだと思うが、アルバム収録曲である「Happy」のオフィシャルMVを真似た動画が世界規模でアップされ続けた。Youtubeという現代的なネットサービスを通じ、Pharrell Williamsの1つの曲が世界中をHappyにしたのだ。まさに前代未聞とも言えるこの現象は、今後の音楽史に残るってもおかしくない。ファーストアルバムから8年、Pharrell Williamsは新しいカタチのポップスターへと進化を遂げて還ってきたのだ。

Theo Parrish / American Intelligence

Sound Signature

近年のベースミュージックの感覚も吸収し自身のマシーンミュージックに、よりファンクネスが表現された本作。アルバムとしては、一般的な価格よりかなり高めに設定されていたのも特徴的だ。しかし、その価格分の価値は間違いなくある。ファストファッションと高級ブランドでは、同じような商品でも価格が違うように、音楽もそうあっていいべきではないのか?同じデトロイトのカリスマMoodymannとは対照的に、荒々しく無骨なサウンド。しかし、Theoにしか出せないそのサウンドに心打たれる。

Todd Terje / It's Album Time

Olsen Records / Beat Records

まるで小洒落れた古い映画のサントラを聴いているかのようだ。「フラッシュダンス」「トップガン」「メトロポリス」などの映画音楽を手がけたディスコの父Giorgio Moroderの現代版とでも言うべきだろうか。ノルウェー・オスロを拠点に活動する北欧ニューディスコの至宝Todd Terjeによるファーストアルバムは、彼ならではのビルドアップしていく高揚感や心地よい温度感、ユーモアさや渋さが詰め込まれた彼からのプレゼントだ。プレゼントをもらって嬉しくならない人はいないように、この作品は私たちを笑顔にしてくれる。

Watercolours / Portals

First Word Records

淡く軽やかな歌声を壊さないように最小限で鳴っているベースとリズム。モダンでオーガニックなエレクトリックポップサウンドで日本初上陸を果たした作品。ニュージーランドの新世代シンガーChelsea Jade MetcalfのソロプロジェクトがWatercolours。収録曲の「Soft Teeth」や「Pazzida」は、AppleやユニクロのCMでも使われてたのでは?と思ってしまうほど自然と体に浸透してくる不思議な魅力がある。彼女の作り出す世界観には、男女問わず恋に堕ちてしまう。そう言いたくなってしまう作品だ。なお、2014年に開催された「Red Bull Music Academy Tokyo」にも参加している。