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PLAY, JAPAN!Red Bull Music Academy

Red Bull Music Academyならではの取り組みの1つに、豪華な講師陣によるレクチャーが挙げられるだろう。昨年のマドリードでは、Erykah Badu、RZA、Nile Rodgersなどが講師を務めた夢のようなプログラムだ。その夢のようなプログラムを、ここ日本でも体験できるのが「PLAY, JAPAN!Red Bull Music Academy」。昨年も、Theo Parrish、Soul II Soul Sound System、Joaquin Joe Claussellなどが、音楽に関して様々なことを説いてくれている。今回は、3月3日(土)に岡山のクラブ"YEBISU YA PRO"で行われた、いとうせいこうとDJ Bakuによる「PLAY, JAPAN!」をご紹介したい。

(C) Osamu Matsuba / Red Bull Content Pool
Text : yanma (clubberia)  
今まで海外アーティストのレクチャーが多かったが、今回は日本人アーティストということもあり、いつもよりリラックスした雰囲気があったように思う。いつもは、左耳で英語を聞いて、右耳には翻訳機からの日本語を聞いて、さらに私は記事を書くためにメモを取るのでパニックぎみになるが今回はまったくなかった。設けられた90分という時間があっという間に過ぎていった。レクチャーは、ライターの二木信が進行役に、それぞれの音楽感や、両者の出会い、なぜ一緒に曲を作るようになったのか?など和やかに進んでいった。  
この両者が揃ったのであれば、コラボレーションした曲" DHARMA "の制作経緯に興味がいく。DJ Bakuは2007年、友人から「いい音源がある」と自宅に誘われ、いとうせいこうのパフォーマンスをパソコンのモニターで見たそうだ。Youtubeにもまだ馴染みも無くパソコンで音を聞くというのにも抵抗があったDJ Bakuが、パソコンからでも魅了されたと言っていた。ドラムにディレイやエコーをかけダークなミニマルトラック、ラップというより演説を乗せたパフォーマンスに、意識を変えさせるほどの説得力を感じたという。と同時に、彼がライブをやるんだという驚きもあり、ちょうどアルバムを作っていた時期でもあったため、口説き落とすためオファーの手紙を書いたという。一方、いとうせいこうは、ポエトリーリーディングと政治的な発言が混ざってこそ、ラップの根源的にあるものが出てくるのではないかと思って表現していた当時、そのスタイルでやりたいと評価してくれたのが嬉しかったから承諾したと言っていた。  
終盤には、受講者とのQ & Aがあるが、「異なった文化で日本のヒップホップが評価されるには?」という問いに対し、DJ Bakuは「価値観を変える表現をするには勇気がいると思うけど、パワーしかない。気合。音楽を作ったり表現するなんて自由だから、誰に何を言われたからって変える必要はない。僕の考え方から言うと変えちゃだめですね。それがスタンダードになった時に評価をされるから」と、あの場にいるアーティスト活動をしている受講者を勇気付けるメッセージを残したのが印象に残った。

この他にも、ラップのルーツについてや、音楽表現を続ける目的、注目しているアーティスト、アニメ・ゲームDJの世界、テクノロジーの進化によるパフォーマンスの変化からターンテーブルの必要性、さらには今後の機材は、ターンテーブルを模す必要があるのか?という根本的なことまで濃厚な話へと膨らんでいった。こういったアーティストの素直な声をリアルに聞ける、この「PLAY, JAPAN!」は非常に貴重な場だと痛感させられる。  
貴重なレクチャーの後には、パーティーが始まる。もちろん両者のパフォーマンスもある。レクチャーは、30名限定だがパーティーには制限はない。オープンし早くから人が続々と集まってくる。ここYEBISU YA PROは、中国地方を代表するクラブである。ブッキング、キャパシティーはもちろん、私は音のクリアさに嬉しくなった。特定の音域を誇張するのではなく、全域バランスよく出力し十分な音量が出ながら、フロアでの会話もストレスなくできる。そして長時間フロアにいても耳が疲れない、今まであまり味わったことのない音だった。店長にそのことを言ったら「お金がかかってでもそこは妥協したくなかったんです。サウンドを作ってくれた浅田泰(AIR LAB)さんのマジックですね」とお店側の強い拘りとプライドを感じた。  
200人は悠に入るメインフロアがパンパンになり、いとうせいこうとDJ Bakuのライブは始まった。それは単なるライブというよりバトルのような研ぎ澄まされた内容だった。DJ Bakuは、アブストラクトな雰囲気を残したトラックから、ゲーム音楽まで自由に展開する。それに対し決まりきった言葉を決まりきった風に載せるような商業的ラップ表現を排除した、いとうせいこうのラップ。両者ともに言えるのは、決まりきったスタイルから積極的に逸脱したパフォーマンスだと感じる。両者が惹かれ、他者を引き込む理由はここにあるのではないかとも思う。「善のネーション、応答せよ!」このポジティブなメッセージでフロアが盛り上がる。まるで、あの時あの場にいた人の考え方を変えてしまうような力のあるパフォーマンスであったことは間違いない。  
この「PLAY, JAPAN!」は、レクチャーから参加すればアーティストの音楽との向き合い方や人間性を知った上でパフォーマンスも体験できる、他には無い取り組みだ。編集されたインタビュー原稿や映像のメッセージとはやはり違うものを感じ取れるはずだ。3月中は残り恵比寿"LIQUIDROOM"が残されているので、ぜひレクチャーから参加してみてほしい。そして、このレクチャーを受けた受講者が将来、世界を舞台に活躍してほしいと願う。

最後に、今年の「Red Bull Music Academy 2012 New York」への参加応募の締め切りが4月2日(月)と迫ってきている。昨年開催された「Red Bull Music Academy 2011 Madrid」をclubberiaで特集したが、それはまさにアーティストにとって夢のようなプログラムであった。世界のトップアーティストによるレクチャーや、整った制作環境、世界中から集まる才能との過ごす時間は、まるで別の時間軸にるかのようだと現地の取材スタッフや生徒たちが語っているほどだ。アカデミーへの参加は狭き門ではあるが、挑戦する価値のある素晴らしい取り組みだと言い切れるので、ぜひ多くのアーティストに挑戦してほしい。



 
■Red Bull Music Academy NY 応募ページ
http://rbma.jp/apply/