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SHINGO★西成

日本にラップが浸透する一方で、それぞれの地域の訛りや方言をラップのリズムやアクセントやライミングやフロウ、あるいはリリック(歌詞)に活かすことができているラッパーはもちろんいる。が、実はそう多くない。その点で大阪の西成出身のSHINGO★西成のラップの個性はずば抜けている。SHINGO★西成のラップからは、彼が生まれ育ち、いまも住み続ける西成の風景や匂いや息遣いが伝わってくる。その土地を訪れたことのない人の想像力も刺激する力がある。そして、喜怒哀楽はっきりと表現する。3年半ぶり通算5作目となるアルバム『ここから・・・いまから』にもそういった変わらぬ魅力が詰まっている。「KILL西成BLUES」のような生々しく西成を描写する曲がある一方で、「一等賞」のような愛に溢れた曲もある。上京中のSHINGO★西成にリラックスしたムードでざっくばらんに語ってもらった。ラッパー・SHINGO★西成のグルーヴィーな語り口も含めて楽しんで読んでもらえれば幸いである。

取材・文:二木 信
写真:難波里美

 

 

バトルに出ているラッパーにはスゲェ根性と情熱あるなぁと尊敬してるよ。…100%以上の煩悩の数108%やな。

 

 

――『ここから・・・いまから』というタイトルに込めた想いから語ってもらえますか。

いまはやりたいことをやらせてもらえる環境にあるから、いろいろ大変なこともあるけど、片意地張ったりせんで前よりも自然体で「エエんちゃう?」って。この3年半、いろんな場所でライブさせてもらったり、いろんな経験させてもらった。あるフェスで自分のライブ中に隣のステージで有名なDJがやってて、「ベンベンベンベンベンベベベベ」ってこっちのステージの音が聴こえないぐらいでっかい音が響いてきてね。

 

 

――はははは。EDMですかね。

そういう環境でライブやるとかも一つの経験。DJの人に悪意はないけれど、その時にビートを止めてラップして、隣のステージの曲が止まった時に「アホ!こっちはこっちのメンバーとお客さんで充分イケてまっせ〜!」言うたってん(笑)。それがお客さんにむちゃウケた。そうやって自分に足らんかったことを学んだりしながら、すべて落とし込んで今回のアルバムの曲になったっていう感じやね。

 

 

――レゲエディージェーのJ-REXXXが参加した「鬼ボス」も「GGGG」も「祭り」もライブでパフォーマンスすることを強く意識して作られているなと感じました。

それがまだまだ足らんと思ったしね。好きな言葉で言うたら、“不足を知る”。足らんことや上手くいけへんことを感じて、いつも「あかんなー」って自分のこと思てるからこそ、「なにくそ!」って改善できることを考える。で、オレはラッパーやから曲作ってる。「GGGG」は、自分のライブ前に聴きたい「ロッキーのテーマ」みたいな曲かもしれん。

 

 

 

――通算3作目となる『ブレない』あたりからそれまで以上に“歌う”ことにより意識的になっていったように思います。本作のタイトル曲の「ここから・・・いまから」もそうですね。

みんなの心に突き刺さったり、心に届くラップのスタイルを知ったからこそ、メロディある音楽の伝わりやすさも知って。失敗してチャレンジしてる過程も「まあ見てもらおか」って歌ってみたりしてる。ラップを引き立てるためにメロディあるんかも知れないしね。

 

 

――それは西成の三角公園の越冬や夏祭り、「こどもの里」などで、まさに老若男女の前でライブしてきた経験も大きいのではないかなと考えたりしました。

(西成は)玄関開けたらもうフリースタイルの街やから。今回東京来るときにも、オレが荷物ガラガラ引いて家から出て誰が見ても急いでるっていうのわかるのに、オバチャンが話しかけてきてね。「わー、シンゴちゃんかー、行ってらっしゃいー!あ、急いでんねんな。そやけど、あーあー、困ったなー」って言うてるから、「どうしたん?」ってこっちも言わなしゃーないでしょ。そしたら、「いつも古新聞を置いてる棚が落ちたから、ここに釘を一本打ってくれるだけでええねんな」って。でもオレ、めっちゃ急いでるから無理やん(笑)。でもヤッてあげようか!になってしまうねん。そういうおもしろいけど助け合いが染みついた街やから。

 

 

――いま西成はフリースタイルの街という話が出ましたけど、そういう街で生きるSHINGOさんは、いまのフリースタイルをどう聴いていますか?

ヒップホップのなかのひとつとして、シンプルに「エエ感じやん!」と思います。フリースタイルバトルでの相手に対する言葉の選び方も育ちや頭の引き出しの多さやセンスが魅力的やけど、もっとすごい言葉をオレは地元のオッちゃんオバちゃんから普段聞かされてるねん。生活してるだけで戸塚ヨットスクールな精神も鍛えられるねん。浮気がバレたオッちゃんや仕事せえへんダンナが街中歩いてんのを奥さんが捕まえて、「コラーッ!どういうこっちゃ!」言うて、頭を持って引っ張りながら「○○〇ボケ!○○〇カス!○○〇アホ!」みたいな凄まじいフロウで罵ってたり、「しばき回すぞ」とか言うてたりもする。しばかれんのも怖いのに、「しばいて回すん?」って(笑)。「お前なんかイケてない」とか「お前はワックや」とか言われるより、わけわからん怖さがあるでしょ?

 

 

――はははは。たしかに。

人間がほんまにムカついて、言葉からはみ出す勢いで「○○〇カス!」とか言ってる方が怖い。そんな言葉を知ってるからこそ、オレは大それた場所で人をディスったりしないで、ライブしたり作品作ったりしたいなと思てる。だから、バトルに出ているラッパーにはスゲェ根性と情熱あるなぁと尊敬してるよ。…100%以上の煩悩の数108%やな。

 

 

言葉は何を残して、何を捨てるかっていう美学がすごく難しい。究極はオレがしゃべってるのがラップに聴こえればベストやんね。

 

 

――本作収録の「Fuck You, Thank You ほな、さいなら」は久々にSHINGO★西成の攻撃性を全面に出した曲だと感じました。

ラブ100%とヘイト100%の振れ幅を持って出し切るのはいいと思ってる。「一等賞」みたいなラブ100%みたいな曲があるから、「Fuck You, Thank You ほな、さいなら」という曲もあると思う。例えば、オッチャンらが呟いている鼻唄みたいなネガティブな歌だったとしても音楽にできればポジティブだと思う。「どうせオレなんか……」「世の中クソ喰らえ」と思って西成で育った自分がいまこうやって音楽できていることや、SHINGO★西成に興味持って音楽を聴いてくれる人には「Thank you」やしね。

 

 

――また、ファーストアルバム『Sprout』に収録された「ILL西成BLUES」と同じように西成の街を生々しく描写する「KILL西成BLUES」もありますが、こうやって西成を描く曲は久々かと思います。

「KILL西成BLUES」で歌ってることは、「ILL西成BLUES」を歌ってるときも思ってたこと。「西成汚いやん」と言われるより先に「汚いとこやねん。でも、ええとこやで」と伝えたい。いまは少なくなったけど、路上でいろんな商売してた人がおったやん? いまもああいう側面が西成にはあるし、オッチャンが子供らの児童施設の前で小便を平気でバーッしたりもする。そういう西成の景色も理解して受け入れて歌いたい。「文句だけ言う屍 クチ閉じろ・・・」(「KILL西成BLUES」)なんか西成で絶対言うたらアカン。それでも歌にするということは責任と覚悟を持って歌ってるつもりやし、命令ではなくて提案してる。「オレはこんな想いあるんやけど、どうする?」って。「Fuck You, Thank You ほな、さいなら」や「KILL西成BLUES」があるから、「ここから・・・いまから」や「一等賞」のような100%愛の歌がある。西成のお好み焼を食べると驚く人がいる。100円なのに豚も卵もしっかり入ってるって。そら、しっかりしてるよ。腹いっぱいにするためにお好み作ってるオッチャンの愛の塊やから。西成にはそういうええとこもある。

 

 

――DJ Spin master A-1プロデュースの「KILL西成BLUES」ではUYAMA HIROTOさんのピアノが全体の緊迫感を生みだしていますね。また、「すんまへん」でも増谷紗絵香さんのピアノがひとつの要になっています。

増谷さんは韻シストのラッパーのBASIのバンドで弾いたり、いろんなバンドで演奏している女性です。イケてますよね。トラックメーカーとか関係者には3年半も待たせて不安も与えたのによく待っといてくれたと思う。TRAMPBEATSが作ってくれた「すんまへん」や「祭り」は1年半ぐらいできひんかった。もちろんリリックは書いてんねんけど、まとめきられへんくて。その曲についてTRAMPBEATSに相談したら「こんなビートもありますよ」って違うビート聴かせてもらって、「すんまへん」はすごい瞬発力でできた。あまりにも待たしてたから、「すんまへん」って思てたんちゃう? その言葉が素直に出てるけど、気取ってる面白さと遊び心を入れてある。

 

 

――言葉を生み出すのに苦労した面もあるんですね。

言葉は何を残して、何を捨てるかっていう美学がすごく難しい。オレらしくするにはできるだけ口語を活かした方がええし、究極はオレがしゃべってるのがラップに聴こえればベストやんね。「いいですね」じゃなくて、「ええやん」やし、「ええやん」(力強い語調で発音する)じゃなくて、「エエやん」(優しい語調で発音する)やから。そういう微妙なニュアンスの違いもあるね。

 

 

――その話を聞いて思ったのが、東京や関東圏でも頻繁に仕事されたりする中で、SHINGOさんの“西成ネイティヴ”の言葉や言語感覚が変化してくるという経験もあったりしますか?

オレはそれがホンマなくて。でも、そういう気持ち悪い何かってあるよね。それこそいま言った“あるよね”っていうのは、オレは気持ち悪いと思わない。餓鬼レンジャーのYOSHI(SHINGO★西成らと共にUltra Naniwatic MC’sのメンバーでもある)とか、こんだけグループ組んで仲良いのに、一週間会えへんかっただけで初対面みたいな会話するから。「お疲れ様です。その件につきましては~」って。「えええー?!敬語ヘタ!」って(笑)。関西人からすると、「気持ち悪(キモチワル)」って(笑)。オレは元々体育会系やから、敬語の切替のスイッチはあるかな。だから、そこをパロッて言える。「先輩には申し上げにくいんですが……、しばくぞ!」とかね。言い方おかしいでしょ?

 

 

――あはははは。なるほど。

だから、緊張と緩和じゃないけど、ラッパーとしてはそうゆうんは使いこなせないとね。そういうのも含めて、ライブでも今回のアルバムでも、声の高いとこ低いとこの上げ下げ、強弱、フロウ、レイドバックした感じとか楽しんでやれるようになってきてると思う。捌きが上手くなったかな。でも、完璧にはまだできてない自分がおるからこそ音楽ってほんまおもろい。

 

 

――最後に、「ここから・・・いまから」はリリースしたばかりですが、3年半かけて完成させたいまの心境はどうでしょうか?

この国でオレみたいなスタイルでラップしても「エエやん」と思うし、「エエか?」ってみんなに問いかけてもいる。究極にわかりやすく言ったらやけど、ラッパーは路上や駅前で歌ってるミュージシャンと同じやから、オレの音楽を聴いて、一曲でも二曲でも「この曲はおもろい」とか「この曲はええな」って感じてくれたらうれしいね。


■SHINGO★西成 オフィシャルサイト
http://shingonishinari.jp/