INTERVIEWS
>

MC KHAZZ

MC KHAZZは2階からステージにジャンプして登場した。3月31日に代官山のSankeys TYOで行われた、ブルックリンのヒップホップグループ、Smif-n-Wessunのラッパー、Tekの来日イベントでの一幕だ。まずは一発カマしてやろうという意気込みが彼をそんなド派手な行動に駆り立てたに違いない。ライブもその登場の仕方同様に気迫に満ちていた。

 MC KHAZZは名古屋を拠点とするラッパーで、3月にファーストアルバム『SNOWDOWN』をリリースしている。彼はSLUM RCというクルーに所属し、ラッパーのATOSONEやMIKUMARIらとのグループ、INFAMY FAM as M.O.S(MARUMI OUTSIDERS)、YOTABROS、TBGPの一員でもある。

 『SNOWDOWN』にはビートに声と言葉を叩きつけて成立するラップミュージックの原始的な力強さと美しさがある。スモーキーなヒップホップアルバムだ。MC KHAZZは、「本当に言いたいことは普通には口にできないというか……言いにくいというか……だからラップがあってよかったです。僕はもう全部曲にしようかなと思って」とインタビューで語った。その発言にMC KHAZZのラップと音楽への姿勢が表れている。ライブから数日後、MC KHAZZはジャンプの着地で痛めた足をひきずりながら取材場所の下高井戸のレコード屋、Trasmundoに現れた。

取材・文:二木信
Special Thanks:Trasmundo Hama-San

 

 

本当に言いたいことは
普通には口にできない……
だからラップがあってよかった



――Tekの来日イベントでライブしましたね。どうでしたか?

めちゃめちゃ楽しかったよ。

 

 

――2階からステージに飛んで登場しましたね。あれは驚きました。

(笑)。階段で降りるのが面倒くさかったんで……みんな引いてござったかな?

 

 

――引いてないでしょう。MC KHAZZを東京で観られる機会なんてなかなかないですから。

あ! 良いこと言った! そういうのがほしい!

 

 

――ははは。3月にファーストソロアルバム『SNOWDOWN』を出しましたね。まずビートのバリエーションが豊富なのが面白くて刺激的でした。ビート選びの基準はどこにありましたか?

直感でやりたいビート。ビートメイカーにリクエストして作ってもらったものもあるけど、ビートメイカーがストックで持ってたものもある。とにかくかっこいいビートでやりたかった。

 

 

 

――レコーディングは、JET CITY PEOPLE(鷹の目と呂布カルマが主宰する名古屋のヒップホップレーベル)の主宰者の一人、鷹の目が運営するStudio NESTで行われたと聞いています。

そう。僕に振り回されて鷹の目がいちばん苦労したと思います。それでも、いつも快くスタジオを使わせてくれた。ほんと感謝しかないです。

 

 

――フッド(地元)について歌った「Home Town Blues」、荒々しいドライブミュージック「Ruff Dryver」、酔いどれ賛歌とも言えるMIKUMARIとの「YOTADITION」など一曲ごとのテーマ設定が明確ですよね。

うん。だけど、ぶっちゃけそこまでいろいろ考えて作ってないですね。アルバムを作ろうと思って「Ruff Dryver」を作ったわけじゃないし、あの曲はJUNPLANTのビートなんだけど、JUNPLANTは“黒魔術系のビート”なんすよ。

 

 

――“黒魔術系”とは?

いきなりリズムが変則できたり……徐々にだったり……もう波形がえらいことになっとった。「Ruff Dryver」やMIKUMARIとの「YOTADITION」(ビートはJUNPLANT)はもともとストックとしてあったビートでやっとるしね。で、他の曲はだいたいレコーディング前日ぐらいにリリック書いて畳みかけて作った。

 

 

ラップって下手なほうがかっこいいのかな?って思うときがあって。そもそもRC SLUMから出すやつなんだで、かっこいいはずでしょ!?

 

 

――「Start me!!」のDJ HIGHSCHOOLのトラックのスピーカーをいじめるようなノイジーな音像にはびっくりしました。しかも、この曲を一昨日のライブでやってましたね。

あのビート、マジでクラブ映えヤバくないですか? あれ結構前にゲットしたSONETORIOUS『Bedtime Beats Vol.1』に入ってたビートで、絶対これでやりたいってなって勝手にレコーディングさせもらって、DJ HIGHSCHOOL a.k.a. SONETORIOUSに聴いてもらってOKが出ました。あの曲がこのアルバムに入っているか、入っていないかでだいぶ違うと思う。あの曲があることでよりいっそう自分らしさが出せたと思ってます。

 

 

――大阪のアメ村にあるEBBTIDE RECORDSの店主がウェブで書いていた『SNOWDOWN』のコメントが作品について上手く言い表していると思いました。「路上や路地裏、連れの家に大事なものがあるのは間違いないし、そこで育まれるユナイトこそ最強の輝きを作品に込めることが出来る。(中略)例えるならSHYNE、MAINO、SHEEK LOUCH、HELL RELL、J.R WRITER、RED CAFE、SAIGONあたりから感じるMCたる/ラッパーたるあの態度、MC KHAZZにはNYのそれらのMCたちと同じポテンシャルがある。もしSTREET REPSを謳うなら、以降このレベル以下では言わない方がいい、そういう線引きをしてしまった傑作」と(引用元:EBBTIDE RECORDS)。MC KHAZZのラップの言葉はまさに「路上や路地裏、連れの家」から出てきているのがすごく伝わってきますね。

僕らが本当に言いたいことは普通には口にできないというか……しにくいというか……だからほんとラップがあってよかったなと(笑)。僕はもう全部曲にしようと。

 

 

――あとやっぱりビートに言葉を叩きつけるときのスピットの力強さや瞬発力がMC KHAZZのラップは特別だと思います。

ラップって下手なほうがかっこいいのかな?って思うときがあって、わかんないすけど……そもそもRC SLUMから出すやつなんだで、かっこいいはずでしょ!?(笑)っていう。そこでの品質の保証はあるし、結局僕は好きにしかできないです。

 

 

 

――いまはデジタル編集がいくらでもできるから、1曲のラップをワンバース目、ツー・バース目と別々に録音するラッパーも多いじゃないですか。でも、この作品ではバースやフックを頭からケツまで一気に録音している曲もけっこうあるんじゃないかなと思って聴いてました。

それが1番自分らしいやり方なのかな? (編集に)ハマっちゃって制作が進まないときがあって、それでみっくん(MIKUMARI)に「おまえ、そんな悩んどったらアルバム進まんがやー。勢いでパッパカ録ってけー」って怒られましたね(笑)。

 

 

――ははは。でもその一気にラップを録音していったグルーヴが出ているのがこの作品のかっこいいとこですよね。

ですかね? (ヒップホップを)音楽とかって言っとるけどさ、もともとは“泥棒音楽”というか、カルチャーもクソもあるんかな?って。人がめっちゃめちゃ頑張って演奏した曲とかをサンプリングとかって言ってその上でラップしとるわけだから。それだから最高なんですけど(笑)。

 

 

――RAMZA(先日アルバム『pessim』を発表したビートメイカー/プロデューサー)の「UNDER DOG」は、ここ最近のRAMZAには珍しいタイプのオーソドックスに攻めていくビートだと思いました。

あ、そう? あいつはネタの使い方は抜群過ぎる。あいつのネタの使い方はヤバい。RAMZA、最高。ほんと信頼できますわ。

 

 

――「FOR BACK chapter 1. -The stickup kid-」にフィーチャリングで参加しているLADY LUCKは誰ですか?

最近知り合ったヤツで……なんかこれから通り名は、SNOWLUCKでいくわって言ってましたね(笑)。フックだけで稼ぎたいみたいです。

 

 

――後半の「SUNDAY MOTEL」は、MC KHAZZ、ATOSONE、MIKUMARIから成るグループINFAMY FAM as M.O.Sの曲ですね。

はい。散々朝まで遊んで、財布の中身がなくなったパーティの……翌日の曲です(笑)。今度INFAMY FAMでアルバム出すよ。楽しみにしててほしいですね。詳細はまだまだ秘密だけど。笑いが止まらんことになると思いますよってに~(笑)。coming fuckin' soon!!

 

 

リリース情報
アーティスト:MC KHAZZ
タイトル:SNOWDOWN
レーベル:RCSLUM RECORDINGS
価格:2,200円(税抜)
発売日:2017年3月1日