INTERVIEWS
>

DJ EMMA

 「ハウスの洗礼は僕のDJ人生で一番大きかったですね。結局今でもチョイスしてるのだから、ハウスが好きなんですよ」
 これは、今年1月に、デビュー30周年を記念して行ったDJ EMMAへのインタビューでの最後の言葉だ。あれから約1年、この月日のなかで彼のなかに芽生えた考えはあるのか? そしてシリーズ20枚目となったミックスCD『EMMA HOUSE XX』で表現したかったものとは何だったのか? 
再びDJ EMMAに取材を行った。

Text:yanma(clubberia)
Photo:Satomi Namba(clubberia)

 

 

 
黒人のニューウェイヴ。黒人のポストパンク
DJ EMMAにとってのハウスミュージック


 
 
——『EMMA HOUSE XX』では、1978年から2015年まで幅広い楽曲を使っていましたが、どのような作品にしようと思いましたか?
今聴いて古い曲ばかりのザ・ベストのような作品を聴くかって言ったら、そうじゃないのかなと。それよりは、この楽曲をこういう風に使うんだっていう、新しい提示ができたらと思いました。新しい曲でハマっていたと思ったら、懐かしい曲がきたり、その逆もあったり。そういった繰り返しって面白いと思うんです。懐かしい曲が当初より減りはしましたが。
 

 

 

——懐かしい曲が続いていて、そこにEMMAさんの新しい曲が入ってきても馴染んでいて。曲と曲のリリース年代的な差に気づきませんでした。それに後で、EMMAさんの曲だったことに気付いて、いい意味で騙されたというか。
時間とともに流れていく音楽の風俗的なカッコ良さもあると思うんですけど、僕にとって時代を超えたものっていうのがハウスやテクノだったりするんです。だから永遠に残っていくものっていうのが残せたらいいなと。

 

 

——EMMAさんのなかで永遠に残っていくものというのは?
一言で言うと普遍的で、何かの焼き直しじゃないもの。だからニューヨークの黄金期の音楽が未だにプレイできるっていうのは、すごいと思うんですよ。制作にお金がかかっていたっていうのもあると思うんですけど、古臭く聞こえない曲もたくさんありますから。黒人のニューウェイヴっていう表現が僕のなかでしっくりくるんです。黒人のポストパンク感というか(笑)。そういうものに昔から惹かれてしまう。だから、メロディーやアンサンブルよりもキックとベースのバランスにオリジナリティがあると残るように思いますね。あと、やり過ぎていないハウスやテクノってずっと好きでいられますよね。
 
——やり過ぎていないものというのは?
ドラムロールが多すぎたり、展開が完結しているものだったり。派手過ぎるとそこに自分の色をのせられないから。かといって坦々としているのもプレイ次第でつまらなくなると思うから、そのバランスが良い曲。
 
——ディスク1ではディスコの父Giorgio Moroderの「Chase」が入っているのが、やはりポイントかなと。
勢いで8曲目の「Chase」までもっていけたらいいなと思ったんです。それにほぼフル尺使っていて、アナログレコードでは考えられないくらい長いロングミックスをしている。それに、この曲はガラージの流れでかけられることはあるけど、ハウスの流れで使いたかったし、ハウスとして聴かせたかった。だから前後に似たような曲を持ってきています。この曲をこういった形で聴かせられるのも、ミックスCDの醍醐味だったりしますよね。
 

 

 

——前の曲はJunior Jackの「Da Hype」ですね。これはエレクトロが流行る前、いわゆるエレクトロクラッシュと呼ばれている曲なので、そこに繋げてくるのが面白かったです。
「Da Hype」→「Chase」→「I Feel Love」、この3曲の流れって、僕のなかではエレクトロニック・ミュージックの20年間を凝縮させたようなイメージなんです。「Da Hype」にエレクトロクラッシュの源流のような「Chase」をミックスし、それにディスコの名曲「I Feel Love」をロックハウスにした曲を繋いでいる。だからここは3曲でひとつの関係性があるんです。

——私はてっきり79年の反ディスコ運動「Disco Sucks」を連想していました。ディスコの名曲をかけて、そこに「I Feel Love」というディスコの名曲をミックスするけど、ロックハウスバージョンだったので。
意味の後付っていくらでもできてしまいますね(笑)。でも、もっとシンプルに「Chase」が好きなんです。ループの仕方というんでしょうか。音にハメてくれる麻薬的なループはすごいなと思います。毎日聴いていられるし、どこでもかかっているフレーズじゃないですか。そういったところに普遍的なものを感じるんだと思います。上モノでシンセが前面にくるものって古くなりやすいですね。

——なるほど。
80年後半から90年台初頭のサンプリングのシンセフレーズとかって古くは感じないけれど、弾いたもの、作り込んだものって、逆に古く感じてしまうことがある様に思う。ラフに作っている昔のシカゴハウスやデトロイトハウスって、不完全な部分が残っているからこそDJがそこに一手間を加えて完成させる。現場に限っては、ハウス/テクノのDJにとって完成された曲って案外つまらないものなのかもしれませんよ。
 

——でもGiorgio Moroderの曲は完成されたものと捉えられませんか?
完成されていると言っても完成度の高さとは意味合いが違います。みんながやっていないことをやっているし、DJミュージックとともに長い時間旅をしてきた曲。リリースが78年ですが、この年代、みんなで楽しくなる曲はたくさんあると思うんですけど、「Chase」は分かりやすいとは言えないけれど大ヒット、しかも隠れた名曲じゃない。「Chase」みたいな曲って意外に少ないんじゃないでしょうか。

 

 

 
テクノが流行っている時代だからこそ
綺麗なボーカルハウスを聴かせたい
 

 

 

 
——ディスク2に関して聞かせてください。ディスク1に比べ最近の曲が多かったですね。

ディスク2は自分の強みのディープな部分を活かしていこうと思って。それと「Chase」みたいなこだわりを言えば、Jaydeeの「Plastic Dreams」。R&S盤はBPMが早くなったり遅くなったりするんです。1993年リリース当時のヨーロッパのDJのなかでは、ミックスできないレコードとしてすごい有名で。前半も中盤も後半もミックスができない作りになっているんですよ。作りというかプレスの問題というか。僕だけの問題かもしれないですけど、それを頑張って繋いでいるっていうところに意義があって(笑)。
 
——都度、微調節しながら合わせていたんですね。
微調節どころじゃないですよ。グワンッて早くなるから。20年くらいかけている曲なので、どのタイミングでどれくらい早くなるかを体が覚えていて。
 
——ディスク2の最後はFrankie Knucklesの「Latest Craze feat. Joseph Chetty」で終わりました。EMMA HOUSE 19の1曲目も彼の曲だったので、あれからまだストーリーが続いているのかなと思ってみたり。
(笑)。最後だから綺麗に終わる曲をと思って。僕はやっぱりハウスDJなのでハウスらしい終わり方を、そう考えるとこの曲が一番ハウスらしいんじゃないかと。
 

——そうですね。ハウスミュージックの象徴的な曲だなと思います。それにディスク2は、ほかにも綺麗なボーカルハウスが多いですね。
代表的なものだと、Kenny Bobienの「Why We Shing」やElemnts of Life(Joaquin Joe Claussell)の「Most Beatiful」ですね。今って若いDJたちに限らず、ボーカルものをプレイしにくい状態かも。テクノのお洒落感が強すぎちゃって。DJもファッションシーンの人も、みんながテクノをかけている気がするし、それを僕は安全地帯に逃げ込んだと思っていますから。だって、流行っているところに後から参入したところで…僕だったら何か新しいことをやるなら、逆に盛り上がっていないものをやりますけど。それはどのジャンルにも言えることですが、誰もやってないことの方が面白いし、意味があると思うんです。

 

 

 
——テクノは確かに流行っていますね。

日本は特にですよね。でも昔に比べてテクノシーンがお洒落になりましたよね。それはすごくいいことだと思う。昔は、テクノというとオタクなイメージがありましたから。音楽は好きだけど、そのイメージが嫌いといった人も多かったと思うんですよね。でも、そこは時代の変化とともに、ハウスよりも良くなっていると思います。ハウスの場合は、ファッションに限らずどんどん魅力が無くなっているように思いますね。テクノのほうが活性化している。
 
——では、ハウスシーンを盛り上げるためには何をしたらいいと思いますか?
僕の場合だったらライブ。30周年パーティーの時にKenny Bobienを呼んだのもそうした思いからですが、これが本当のライブなんだ!と。ライブって「ノッてるかーい、イェーイ」の部分ではなくて、時間を噛み締められる様なものだと思うんです。ちゃんと息遣いが伝わってくるというか。そうしたライブを魅せていきたい。
 
——DJではどうでしょう?
文化的にも僕らもお客さんも「One Night One DJ」っていうものを追い求めている部分はあるし、守っている部分でもある。でもそれが邪魔しているのかもしれない。でも、やはり僕は「One Night One DJ」が理想。4つ打ちのDJにとって1時間というのはあっという間だし、ハウスのDJにはできるだけ長い時間プレイをさせてあげてほしいなと思います。3時間できないDJに、1時間のDJもできないと思う。そこからしかハウスってなかなか…。

 

 

 
DJ EMMA Friendsによるリリースパーティーが開催
 

 

 

——12月3日(土)のリリースパーティーでは、ミックスCDにも収録した楽曲のボーカル、N’Dea DavenportとOlagMakovetskayaの2人が出演しますね。
2人は、いわゆるアシッド・ジャズなのでEMMAさんとやるっていうのが面白いかなと。
ライブは、2人ともオリジナルの楽曲で歌ってもらいます。最初はハウスの方がいいかなと思ったんですけど。N’Dea DavenportがいたBrandNew Heaviesの「You Are The Universe」は、みんなが知っているヴァージョンってハウスリミックスのものだと思うんです。それが一番流行ったから。そういえば、僕もオリジナル・ヴァージョン聴いたことないかもと思って(笑)。

——GAIAは、ほかにPUNKADELIX。ほかのフロアにはEZ、Yoppyなどが出演しますね。皆さん知り合いなんですよね?
そうですね。ジャンルが違ったりしていたけど、ここまで続けてくると、みんな出てきてくれるようになりますよ。セカンドフロア、サードフロアに自分の知らないDJをブッキングして、ワンフロア10人とかでやるつもりは一切ないので。若いDJたち10人にお願いして「みんな10人ずつ呼んで!」てやれば、それだけで100人は来るけれど、いやいやそれじゃあ魅力あるサブカルチャーとは思えない。EMMA HOUSEは昔からやっているから、出演者も来てくれる人も昔から遊んで人たちが多い。何年かぶりに会うことで、一緒にご飯食べに行ったり、そこからまたパーティー野郎みたいになってくれたり、DJとして復活してくれたり。そういうものを見ると、このパーティーというのはそういうことができるパーティーだなと思うので。
 
——当日はお寿司が握られるようですね。
WHITEエリアに関しては、いろいろ考えた結果、ポールダンスを見ながら寿司を食うといったありえない方向に行っちゃったんですよね(笑)。次回はもっとシンプルに戻すけど、たまには、あっていいのかなとも思いまして。

 

 

 
DJ キャリア30周年から1年。
2016年を振り返って。
 

 

 

 ——2016年というキーワードで、少し日常的な話題を伺います。今年は音楽をアルバムで買いましたか?
アルバムもアナログでは買ってはいますが、そんなに聴いてないですね。コンセプチュアルなものだと惹かれて買うことはありますけど、トータルで聴いてその世界観を感じたいものが少なくなったのかもしれません。Daft Punkとかはそういった意味ではトータルで聴いて、やっぱりすごいなと思いますけど。

——今年買ったアルバム作品のもののなかで良かったものは?
Joaquin Joe Claussellの『Thank YouUniverse』は良かったですね。ダンスミュージックだけどダウンテンポやビートレスな部分もあって聴けるもの。ハウスやテクノってもともと業務用だったから、DJが曲をつなげることによって成立していたものが、そうじゃなくなった時には、やっぱり弱くなるんだなと思います。今年のアルバムでなんかあったかな……。パッと思いつかないということは無かったんでしょうね。

——では今年、よくプレイした曲は何ですか?
『EMMA HOUSE XX』のディスク1に入っているHBNGの「Looking 4 Trouble」です。これは相当かけました。テクノ好きの人が多いイベントだと、これが一番盛り上がるんじゃないかな。あと、歌ものはかなりかけましたね。ディープハウス系のボーカルにしても、アッパー系のボーカルにしても、掘って探した1年でした。アシッドは相変わらずでした。
 

——曲探しの方法は?
ネットでも探しますけど、やっぱりレコードショップに行くことが多いです。バイヤーが勧めてくれたり自分で掘ったり。次第にダウンロードだとどうしても曲を大事にできなくなってきました。でも、現場でトラブルがあった時のためにCDに焼いては行きます。環境が整っている箱というのがやっぱり少ないので。データで持っていかなければいけないという必然性もあったうえで、アナログでかけたいってどうしても思うんです。アナログをかけたいという感覚については、“分かってくれなくてもいいけど、いいものを食べさせたい”みたいなニュアンスに近いんですよね。もうひとつは、かっこいいものとして捉えてアナログを回すということ。

——アナログという話でいうと、今年はカセットテープが話題になった1年でもありました。『EMMA HOUSE』がCDでリリースされる前、カセットテープでも出していましたか?
『アンサンブルシリーズ』っていうものを30作ぐらい出していました。それを売って食っていたぐらいの時期もありましたね。DJでイタリアに行った時に、みんなDJの最中に何かしているんですが気になって見てみると、お客さんにカセットテープを売っていて、手渡しで。DJ中に何してんの!?とショックを受けましたが、それを真似て自分もプレイ中にカセットテープを売っていました。メタルテープに録音して1本1.500円ぐらいで。

——メタルテープって何ですか?
ノーマルテープ、クロームテープ、メタルテープってあるじゃないですか…え、知らないの!?

——すみません、知らないです(笑)。カセットテープは2000年くらいまで使っていたんですけど…
マジか(笑)。データでいうハイレゾみたいな。当時400円くらいでノーマルテープがあって、その倍くらいの値段でクロームテープというものができて。その後メタルテープが。。ヒスノイズが少なく、レベルを入れられるから音が良かったんです。調子が良かった時は、安いところから大量に仕入れて毎日ミックスをダビングしてました(笑)。

——そのシリーズはどんなコンセプトでしたか?
ミックスの妙みたいなものを表現するというものでしたね。全部ミックスにこだわった作品ばかりだったから、好きな人からするとミックスの謎を紐解く感覚が面白かったんじゃないでしょうか。1989年には作っていたのかな。

——いまさらですが、DJ EMMAの名前の由来を教えてください。
閻魔大王のキャラクターでしょうね永井豪さんの作品で『ドロロンえん魔くん』。彼が被っていたような帽子をよく被っていたのがきっかけです。いや、そのキャラになりたくて帽子を被っていた訳でもありませんが、もともとニックネームでした。僕の年代ってポストパンクの白塗りにしてどんどん格好がゾンビ化していった世代でもあって。日本の場合はそこに、yohji yamamotoやCOMME des GARCONSとか、そういったものとかとも合わさったんですしょうけど。
 

——今年の1月にEMMAさんのインタビューを公開させてもらいました。約1年経ちますが、振り返ってみて変わったことはありますか?
やっぱり風営法と深夜遊興の問題はすごく大きいですね。地元のことってやっぱり地元で頑張んなきゃ難しいと思う。その為に地元のDJたちにしかできないこともあって、頑張ってきた動きが結果に繋がること、動かなかった事が致命的になったこと、それがよく分かった。大阪、京都、名古屋に限らず日本全国それぞれ大変だと思います。でも自分のところだけが辛い思いをしているという風に思っても仕方ないと思います。この状態というのは全て積み重ねの結果なので。この結果からどうやっていい方向に持っていくかだし、それは未来のこと、いくらでもと思うんです。そのために時間を惜しまないで、地元に貢献する。そうした考えは大事です。

——まずは地元に貢献することが大事だと?
それがないと風営法、深夜遊興に関わらず歩みが難しくなると思います。今回の改正で、営業できる店とできない店に別れたと思いますが、どちらにせよ立ち上がらないといけない人が出てくるのですから。全てOKで全て救うということは難しいんですね。特殊な職種というより地域を味方に付けてが一番良いと。だから頑張ってほしいんです。これから日本のシーンは他の国に先駆けて、演者、オーガナイザーといった人たちがジャンル関係なくひとつになる筈です。そこから未来は続いていくと思うので諦めないでほしい。全体的な話をすれば去年、一昨年より悪くなってはいないですから。事業者が許可を取っているか取っていないかはありますけど、朝まで踊ることそれ自体がポイントにならなくなった事実、それだけで全然違いますよね。だから一緒に戦っていきましょう。良くするのはこれからです。文句を言うんだったら、ロビー活動をやりましょう。

——うまくいった先には何があるのでしょうか?
活性化、そして成熟したシーンに向かう様になってくれたら嬉しい。個人的にはもう少しDJが社会的に普通になってくれたらと考えているので普通の仕事としても見てもらえる。それこそ職業欄にDJと書けるようにもなったら、それはそれでいいと考える人も多い様に思えます。

 

 

■リリースパーティー情報(12月3日 @ SOUND MUSEUM VISION)
http://www.clubberia.com/ja/events/260533-EMMA-HOUSE/

■リリース情報
http://www.clubberia.com/ja/music/releases/4827-EMMA-HOUSE-XX-30th-Anniversary-DJ-EMMA/