クラベリアがオススメする、2015年の名盤20枚

 振り返れば、日本人アーティストの奮闘を強く感じた2015年。世界でも高い評価を受けたアルバムも並び、日本人が創造した音楽を海外へ発信するという意義のある一年になったのではないだろうか。
 海外勢では、ジャズ・シーンに新たな息吹をもたらしたカマシ・ワシントンやハイエイタス・カイヨーテ、そのシーンに密接な関係を見出したケンドリック・ラマー、新しいソウルの形を提示したジ・インターネットなど、新たなムーブメントを予感させる才気溢れるアーティストたちが活躍。また、フローティング・ポインツやジェイミーXXといった、多様なジャンルを吸収しオリジナルのダンスミュージックを表現するDJたちが目立ったのも印象的だ。
 クラベリア編集部が厳選した多岐にわたる20枚の名盤。どの作品も素晴らしい内容なので、ぜひチェックしてほしい。
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Text: Ryosuke Kimura (clubberia)

tha BOSS / In The Name of Hip Hop

Tha Blue Herb Recordings

“ヒップホップとは何か”を考えさせられるtha BOSS初のソロアルバム。真っ直ぐに感情を表現するリリック、ビートメイカーたちと新たなものを生み出そうとする意思、ゲストラッパーたちとの共演、そういった姿勢には、18年のキャリアのなかで吸収してきたものすべてを表現する覚悟と同時に、もう一度己を見つめ直す意味が込められているような気もする。Tha Blue Herbのときとは違い、彼のパーソナルな部分がストレートに見えるからこそ、彼を知る者、これから彼を知る者、両者に強く響くものがあるはずだ。

Calm / From My Window

Music Conception

「窓を通して見た景色がフィードバックされているような気がして」。インタビューでそう語っていたように、このアルバムを聴けば、叙情的な風景が脳裏に浮かぶはずだ。これまでの作品よりも電子音と生音のバランスがフラットになった印象で、多彩なシンセサイザーのアルペジオリードの上に重なるピアノ、サックス、トランペット、フルートといった音色が楽曲に絶妙なアクセントを加えている。また、ビートが少ないのも特徴で、幾多にも重なる豊かなメロディ展開がより強調され、本作にもCalmらしい穏やかな世界観が広がる。

Floating Points / Elaenia

Beat Records / Pluto

デビューアルバムとは到底思えないほど洗練された本作からは、音楽に造詣が深い彼らしさがよく滲み出ている。DJとして多彩な音楽を表現するのと同様、エレクトロニック・ミュージックやジャズ、クラシック、実験的なものまで、彼に影響を及ぼした音の質感をはっきりと感じられる。そして、どの楽曲も繊細に作り込まれており、感情に寄り添うようななんとも言えない包容力を持つ。感情がじわじわと溢れてくるような展開によって、その優しい音が変化していく様は、どの場面を切り取っても美しく聴こえてくる。

Gonno / Remember The Life Is Beautiful

Mule Musiq

身も心も溶かしてくれるようなエレクトロニック・ミュージックを存分に聴かせてくれた本作。彼が得意とする印象的なアルペジオと柔らかいドラミングは天にまで伸びるようで、幾多にも重なるメロディは、近くで寄り添ってくれるときもあれば、手の届かない場所へ潜るときもある。そんな、“光と闇”のメロディが同居するなかで生まれた深みのある楽曲からは、目には見えない景色が自然と浮かんでくる。それこそが彼の音楽なのだろう。“天上の音楽”とも形容できるほどに不思議な力を持ったアルバムが、ここ日本で作られたことが誇らしい。

Hiatus Kaiyote / Choose Your Weapon

Masterworks / Sony Music Japan International

前作『Tawk Tomahawk』で注目を集めたハイエイタス・カイヨーテは本作でその実力を確固たるものにした。彼ら特有のネオ・ソウル感は健在だが、スムースなピアノの流れと、随所に散りばめられキレのあるリズムチェンジからはジャズやフュージョンも彷彿させる。また、ヒップホップ、ドラムンベース、ダブステップなど、多彩なリズムを自由自在に操って生み出された緩急ある展開が最大の魅力。それを見事に歌いきってしまうボーカル、ナイ・バームのテクニックと歌声は、熟練シンガーのような圧倒的な存在感を放っている。

The Internet / Ego Death

Odd Future / Sony Music Japan International

前作『Feel Good』のバンドサウンドをより進化させてみせたジ・インターネットの3作目。しかし、バンド然とした楽曲というよりもヒップホップ的手法を用いたビートメイクが印象的で、それを引っ張る幻想的なシドのボーカルが絶妙なバランスを保つ。これまで以上に哀愁漂うメロウなネオ・ソウルを聴かせてくれるが、ファンクやジャズの要素も随所に感じられ、表現の幅がさらに広がった印象。Odd Futureということもあり、ストリートカルチャーから生まれた今っぽさもたまらない。にしても彼女の歌声は本当に心地よいものだ…。

Jamie XX / In Colour

Young Turks / Hostess Entertainment

彼のDJプレイ同様、作りたいものを作り(かけたい曲をかけ)、それをひとつのセットのような流れで完成させたソロ・デビューアルバム。先に、The xxとしてその名が広く知れ渡ったわけだが、そのときのプロデュース力は本作にも如実に表れており、どんな音も彼の色に変えてしまう能力はシーンの中でも突出している。また、ダンスミュージックはもちろん、ダブステップ、トラップ、ヒップホップ、オルタナティブなど、アルバムタイトルやジャケットデザインのように、多彩な色を持った楽曲が混じり合っているのも本作の特徴だ。

Kamasi Washington / The Epic

Brainfeeder / Beat Records

長い歴史を持つジャズ史のなかで、この先も長く語り継がれていくであろう濃厚な一枚。スヌープ・ドッグ、フライング・ロータス、ケンドリック・ラマーなど、名だたるアーティストたちが賞賛するだけに、それはジャズに限らずかもしれない。総勢60名を超えるメンバーが参加して制作されたことにも驚かされるが、約3時間の大作にもかかわらず、長編映画のような展開力と多彩なメロディのおかげで最後まで飽きない。そういったアイデアの豊かさは、2歳の頃から楽器を演奏し、さまざまな音楽に触れてきたからこそ。

Kendrick Lamar / To Pimp a Butterfly

Aftermath Entertainment / Universal Music International

消えることのない人種差別問題に立ち向かい、黒人たちが抱える闇に光を当てたケンドリック・ラマー。痛烈なメッセージが詰め込まれた本作では、多彩なラップテクニックと音楽を武器に挑む彼の才能が全編にわたって発揮されている。前述のカマシ・ワシントンを筆頭に、LAの優れたジャズ・ミュージシャンたちが参加していることもポイントで、本作をより輝かしいものへと導いている。強烈な演奏による“生感”と彼の細かなリリックが交わり、今までのヒップホップやビートミュージックにはない圧倒的なエネルギーを生み出した。

DJ KRUSH / Butterfly Effect

Es・U・Es Corporation

小さなできごとがやがて大きなできごとを引き起こす。このアルバムタイトルが意味するように、前作から11年もの間に彼が感じてきたものの積み重ねが現実的な音楽へと生まれ変わった。ヘヴィーでいてハッキリとした音の輪郭の隙間からこぼれる音色は彼の感情にほかならない。そこにゲストアーティストの個性も重なり、オープニングを飾る新垣隆も壮大なピアノを奏でている。なかでも強烈なのがtha BOSSをフィーチャーした「Living in the Future」。彼のリリックにはDJ KRUSHの音を代弁するかのような重みがある。

mouse on the keys / the flower of romance

Mule Musiq

楽曲はもちろんのこと、アートワークを含めて洗練された作品を発表してきたmouse on the keys。ジャズの自由度を活かし、エクスペリメンタルとクラシックを色濃く反映させた本作には、これまで以上に研ぎ澄まされたが感覚がある。反復されるピアノの旋律、実験的な電子音、巧妙に構築されたリズムはまるで羅列した数式のよう。この数学的な音楽感覚は、聴き進めていくにつれてどんどんと凄みを増していくため、アルバムトータルで聴いてほしい。まさに、彼らにしか創造できないモダニズム音楽が細部にまで広がっている。

にせんねんもんだい / #N/A

Beat Records

3人組みのガールズバンド、にせんねんもんだいは、おそらく日本よりも海外での知名度の方が高いかもしれない。そういった意味でも、本作は彼女たちを知るきっかけになる一枚だ。ほとんどの楽曲が彼女たちの即興セッションによって生み出されており、「ライブアルバムのようだ!」と言い切れるほどの臨場感を味わうことができる。ラシャド・ベッカーによるマスタリングのおかげか、より硬質に磨き上げられたインダストリアルなサウンドは、アルバムを通してまるでハードなミニマルテクノセットを聴いているような気さえもしてくる。

Oneohtrix Point Never / Garden of Delete

Warp Records / Beat Records

現代のテクノロジーを飛び越えた未来的エレクトロニカ…、と書き始めたはいいが、なんのこっちゃと思うかもしれない。ただ、本作を聴いてもらえればすぐにその意味が分かる。まるでSF映画を鑑賞しているような感覚に陥り、ものすごいスピードで変化していく音の断片は、テクノロジーの進化を表現しているかのよう。加工されたギターサウンドが鳴ったり、シンセ、ボーカル、ノイズ、ドラムがあちこちに飛び交ったり、人間が生み出した音楽とは思えないほど多次元。その世界観を増幅させている解像度の高い音も本作のポイントだ。

Petre Inspirescu / Vin Ploile

Mule Musiq

ルーマニアを代表するトップDJとして世界的に活躍している彼が、ルーマニアン・ミニマルというジャンルをさらなる高次元へと押し上げたのは確かだ。このアルバムでは、ピアノやストリングスをはじめ、打楽器や管楽器の要素もふんだんに用いて有機的に仕上げられた楽曲が並び、まるで動物たちが暮らす森の中から聴こえてくるような不思議な空気を纏っている。生き物のような音作り、そしてクラシック音楽への愛情から生まれる官能的なムード作りは、紛れもなく彼の才能にほかならない。ずっと聴いていられる心地よさも◎。

DJ Richard / Grind

Dial Records

ダンスミュージックへの強い意志が感じられる、DJ RIchardのデビュー作。ドイツの名門レーベル、Dialからリリースされた本作は、感情移入してしまうメロディラインはもちろん、決して邪魔をしないドラムパターンがどの楽曲においても絶妙な働きがけをしている。イーヴンキックがベースだが、彼が生み出す美しいメロディ展開のおかげで決して退屈しない。また、アンビエント、アブストラクト、コズミック調なものまで、幅広い楽曲が同居するにもかかわらず統一感があるのは、彼の世界観が明確に反映されているから。

DJ Sodeyama / Twelve Processing

moph records

DJを活動の軸としている彼にとって、8年ぶりのアルバムリリースにはとてつもない不安と期待が入り混じっていたに違いない。しかし、本作では、DJとしての彼のイメージをさらに良い方向へもたらすハイレベルかつ多様なダンスミュージックを聴かせてくれる。DJプレイ同様、彼が作り出す音には奥行きが存在し、どの楽曲からもドラマティックな情景が浮かび上がる。描きだされたその音の情景こそが彼の真骨頂であり、表現者であることを再認識させてくれる。発売が予定されている本作からのシングルカット(ヴァイナル盤)も楽しみだ。

Soichi Terada/Sounds Far East

Rush Hour

世界のハウス・シーンにおける2015年最大の発見は、まさしくコレだろう。アムステルダムの名門レーベル、Rush Hourによって24年の眠りから覚めた本作のおかげで、世界中のハウス・ラヴァーが日出ずる国で生まれた彼の音楽に夢中になったはずだ。90年代のニューヨーク・ハウスのテイストを持ちながら、どこか愉快なマインドを感じられるのも日本人の彼だからこそ。また、“Back to the 90’s”の言葉では片付けられないサウンドメイクも秀逸で、一度耳にすれば今のハウスミュージックにはないヴァイヴを感じ取ることができるはずだ。

Tuxedo / Tuxedo

Stones Throw

Stones Throwsでデビューを果たしたソウルシンガー、メイヤー・ホーソーンと、ドレイクやケンドリック・ラマーらを手がけてきたプロデューサーのジェイク・ワンがコラボするということで本作は大きな話題を呼んだ。往年のソウルやディスコ・サウンドをベースとしているのだが、生楽器全開でそれを表現するのではなく、電子音楽を混ぜ合わせてサラっとスマートに作り上げてしまったのが本作のすごいところ。それこそが今の彼らの気分であり、モダンと言われる所以なのだろう。明快かつ愉快なポップさには余裕すら感じる。

Tyondai Braxton / Hive1

Nonesuch Records / Beat Records

彼が以前、バトルスで表現していたサウンドを聴くこともできるが、本作ではよりエレクトロニックな側面が引き出されているように感じる。また、メロディを持たせずに、電子音やパーカッションをごくごくシンプルにまとめ上げることで生まれる彼特有の不協和が、奇妙な空気を漂わせているのも面白い。そんな不穏なムードのなかに細かい音が積み重なり、多彩なリズムパターンが作り上げられていくのだ。しかし、そこに居心地の悪さは全くなく、リスニングにも適した新鮮なミニマルミュージックが見事に表現されている。

77 Karat Gold / Wannafunkwitu

Jazzy Sport

Sauce81とgrooveman Spotによるこのプロジェクトで、似たバックグラウンドを持つ互いの才能が見事に重なった。彼らの背景にあるヒップホップの匂いは、乾いたドラムサウンドやファンクなベースラインからも感じられ、日本人離れしたソウルフルな感覚にも驚かされる。そこにテクノやハウスのエッセンスが加わり、NYの現アンダーグラウンドハウスシーンにも似たブラックネス溢れるグルーヴと中毒性がもたらされているのが特筆すべき点。どの楽曲においても、彼らにしか出せないオリジナルのグルーヴが必ず存在している。