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Dave Pezzner

コンプレッサーが出回る以前、エンジニアは手作業によるフェーダーのコントロールで音量のダイナミックスを調整しなければならなかった。非常に時間のかかる緻密な作業だが、結果的には音源に明瞭な音のダイナミックスが得られ、現在でもプロのエンジニアによる手作業のコントロールと鋭い感覚に勝るものはない。

ただこの作業にかかるありとあらゆる労力を無視して同じ効果を得られるのがサイドチェイン。メインのトラックにかかるコンプに対して2つ目のオーディオ信号を通すことができるコンプ方式である。一般的な使い方として有名なのが「ダッキング」。これは例えばバックグラウンドの音楽に声を乗せる時、声が被さる瞬間にそのバックに流れる音楽の音量を瞬間的に落とし、声が乗る隙間を与えてくれるテクニック。ダンスミュージックのプロデューサーがよく使う手法としてはキックドラムの音の通りを良くするために他のオーディオトラックからサイドチェインをかけ、キックが入る度にそのオーディオの音量が瞬間的に下がり、結果的に音のスペースが産まれ、よりキックが際立つように鳴る。テクノやハウスの楽曲でオーディオ全体が呼吸し、跳ねているように聴こえるあの効果である。

自分の場合は曲の中の要素からフォーカスしたい音を出し入れするのに便利なツールとしてサイドチェインを使っている。これによりあらゆる音の優先順位を付けることが可能になるのである。以下は自分がよく使う例である。

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サイド・チェインインサート / メインオーディオ信号
キック・ドラム / サブベース、ベースライン、バックのノイズ等
スネアもしくはクラップ / ストリング、パッド、長い音やリバーヴ等
ヴォーカル / ギター、単音系楽器、明るいシンセ音、ホーン等
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以上は絶対的なルールというわけではないが、自分がミックスダウンをする場合は主に自分の曲のどの要素をリスナーに特に聴いてほしいか、どの音に優先順位を置くかを注意している。サイドチェインは曲の重要な要素にフォーカスさせるのに最適な素晴らしいツールだ。 前述したが、フェーダー操作を手動で行う程ベストなコンプの掛け方は無い。自分のミックスがどういう音になるのかしっかりとしたヴィジョンがあればオートメーションボタンをオンにして自分でフェーダーの動きを記録する方法が1番。ただボリュームフェーダーだけでなく、パラメトリックEQの強調ポイントを変えたり、リバーヴのセンドリターンのレベルやステレオの定位を動かす事でオーディオに更なるドラマやアクセントを加える事が出来るのである。どんな小さなオートメーション情報も曲にライブ感を持たせ、プログラムで情報を直接書き込む時間を短縮するばかりか、自分の楽曲に少しばかりの生命を宿すことになるのだ。 筆者はMixed In Key(http://www.mixedinkey.com/)の大ファンである。このプログラムはオーディオファイルを分析し、曲のキーを探り当てることができる。このプログラムの一般的な使い方はDJがそれぞれの曲のキーを知ることでハーモニー的にマッチする曲を見つけることができるというもの。
自分はこのプログラムをプロダクション用途に使っている。自分は伝統的なトレーニングを積んだ音楽家でもなければ、ピアニストでもなく、まして音楽理論が理解できる訳でもない。自分の耳だけを頼りに作業しているため、アイデアに困った時や行き詰まった時には自分の楽曲を出力し、Mixed in Keyで分析し、他の何千もの曲と比べるようにしている。時にぴったりと合う古いソウルやディスコのサンプルを見つけたり、ベースラインのアイデアを探す手助けになってくれている。 誰もが遅かれ早かれ陥りやすい問題がコレ。プロジェクトをスタートさせた最初の2時間は新しいアイデアに興奮するものの、作業を続けて行く内に興味が段々失われてセッションが終わるころには、プロジェクトそのものを完全に捨ててしまう準備が万端になっているという非常にいらだたしいサイクル。自分としては2時間以内に楽曲を創り終えることができれば聴き過ぎて嫌になる暇も無いというセオリーがあるものの、現実的にはそう簡単には行かない。問題の一部は自分のプロジェクトがいかに流動的に作業できる状態かにかかっている。自分好みのサウンドを用意してなかったりサンプルが正しく整理整頓してない場合は楽曲制作のほとんどを記憶を頼りにしたいらだたしい作業になってしまうのだ。

以前筆者はありとあらゆるサンプルを全て1つのフォルダに保存していた。新しいサンプリングCDを手に入れたり、曲を分解したり、リミックスのパーツを受け取るたびに全てこのフォルダに入れていたため、終いには乱雑に幾重にも連なったフォルダ階層のおかげで自分の探しているサンプルを見つけるのに非常に手こずることになった。さらにやっかいだったのがFL StudioとAbletonの作業中のファイルで、サンプルの場所を違う階層やフォルダに移動させるとFL Studioはサンプルを自動で再読み込みすることができなくなるのだ。

このどうにもならない状態から最終的に抜け出したのが自分の創造的スランプだった。あまりのファイルの不整理から自分の作業に支障をきたして遅くなるばかりか、必然的に創り始めたどの楽曲も最終的には没にせざるを得ない状況になってしまったのだ。
というわけである日決心をして自分のサンプルを整理し直して自分が見つけやすいフォルダを作り直すことにした。以下が自分のライブラリー階層構成である。


●製作中音楽ファイル

作業ファイル (FL Studio と Ableton ファイル)

カット
>映画とテレビのカット
>音楽カット
>ヴォーカルカット

ドラムループ
>各種
>サンプル・ファクトリー・ライブラリー

ドラム
>クラッシュ (各種)
>ハイハット (各種)
>キック (各種)
>パーカッション(各種)
>スネアとクラップ(各種)
>サンプル・ファクトリー・ライブラリー

FX
>各種
>サンプル・ファクトリー・ライブラリー

ヒット(爆発音やコードのパーカッシヴなサウンド)
>各種
>サンプル・ファクトリー・ライブラリー

Impulse Responseファイル (IR's for convolution reverbs)
インストルメント・バンク (Halion, Battery, Kontakt, Reaktor等のファイル)
Jacob London Sample CD (自家製エフェクト・サンプル)
MIDIファイル
音楽ループ (コンストラクション・キット)
ベース (ワンショットのベース音)
シンセ (ワンショットのシンセ音)
ヴォーカル (アカペラ、サンプリングCDのヴォーカルセクション)


初心者にとっては少々大袈裟な構成に思えるかもしれないが、急激に増える自分のサウンドライブラリーにすぐ驚くことになるだろう。自分のライブラリーは現在300GBを超えたが、このシステムを使うことで自分が必要なサンプルをすぐに見つける事ができるようになった。 よく自分の楽曲がどんな環境の中に存在しているのかを考えている。ハウスやテクノの楽曲は大抵ドライでノイズの無い空間に電子音とプレートリヴァーブの残響だけで成立している。大抵はそれで構わないのだが、プロデューサーがその楽曲に空間を与えると目を閉じて音楽を聴いた時により意味合いが出てくる。自分はその曲を聴いた時にどこかに連れて行かれるような感覚を生んでくれる音楽が大好きだ。楽曲をより違う次元の現実に持って行き、リスナーをより音楽の世界観に浸らせるのに最適なのが環境ノイズを楽曲のバックグラウンドに走らせること。もし録音機とマイクがあれば恐れずに外に持ち出して近所のお店から、森やビーチを録音してはどうだろうか。パーティートラックであれば混雑しているバーに録音機を持って行って人のざわめきを録音するのもいいかもしれない。

録音機が無ければ映画用等の環境音ライブラリーのサイトは山ほどある。ほんの数ドルで自分の探しているありとあらゆる環境音を買うことができる。最近自分が購入しているのはhttp://www.pond5.com/ だが他にもたくさんある。