INTERVIEWS
>

RIOW ARAI x DJ DUCT

RIOW ARAI: 2000年くらいにアブストラクトブームがなんとなくあって、僕は、そこの括りに乗ったみたいなことがあって、その辺でDUCTは僕のことを知ったと思うんですけど。

DJ DUCT: その当時、僕らの世代でヒップホップを聴いてた人は、インストヒップホップやアブストラクトを聴きながらも、エレクトロニカ~テクノ方面に行く人と西海岸のスクラッチブームに行く人で分かれてたりしてましたね。それらをまとめて、ブレイクビーツという括りで、例えばCome CleanとARAIさんのビートを混ぜてかけると、盛り上がってましたね。士魂やLeafからの12インチも。 RIOW ARAI: 出会ったのは、その後ぐらいだね。自分は色んな曲を作ってるから、どれがいいとかわからなかったんだけど、DUCTに'break roads'がいいって言われて意外だったというか。

DJ DUCT: DJがかけやすい曲なんですよ。で、カッティングも良くて、色んな現場で鳴りが良かったこともあったし。 RIOW ARAI: 僕は、DJをやってなかったので、作る立場としてはヒップホップもテクノも好きだけど、どっちの住人でもないから、何か自分でキーワードを作らないといけないなと思ってて。それでビートって言葉を軸にして2001年に"bitter beats"とか"beat bracelet"というタイトルの作品を連続リリースしたんですよ。

DJ DUCT: ARAIさんのビート押しは半端なかったですよね(笑)。あとエディット感。Flying Lotusが出てきた時にビート系っていうジャンルができてくるわけですけど、ARAIさんが既にいますよっていう違和感がありましたよ。この前、UNITで一緒にやったライブでは、ARAIさんの10年前のトラックで盛り上がってました。あの日のセットは、ARAIさんのリリースされてない曲を含めて僕が選曲したんですけど。 RIOW ARAI: 僕のビートも10年前は、ズレてるとか突っ込み気味とか言われたんだけど、最近のビート系に慣れてる人にとってはもはやジャストに聴こえるという意見もあったして。

DJ DUCT: さらにもう1回ズラさないとダメってことですよね(笑)。で、ARAIさんの10枚目のアルバムなんですけど、音質に関しては変わったというか良くなりましたよね。 RIOW ARAI: 今までローファイ志向というか悪い音を追求してたんですけど、ここ数年はソフトで作ってることもあって、今回は特に音の質感を変えてみました。あと他の人は、普段からやってることかもしれないけど、ループベースで自分なりに初めて作ってみました。

DJ DUCT: 色んな素材を組み立ててグルーヴを出してブロックとし、そのワンループを曲に引き延ばす作業をするってことですよね。 RIOW ARAI: そのワンループを見極めて、OKかボツかの判断をしていくってことで。

DJ DUCT: その判断は、サンプラー時代に培ったビートメイキングスキルに依っているってことですよね。 RIOW ARAI: だけど判断基準は理屈じゃないというか言葉にできないよね。

DJ DUCT: サンプリングでもレコードを聴いてる時はいけると思ってても、ループ組んだらダメだったということはありますね。むしろそういうケースの方が多いですけど。 RIOW ARAI: そうだよね。だからいいレコードをディグするのも大切だけど、一方ではそれが必ずしもいいプロダクションに繋がるともいえないというか。

DJ DUCT: ループを組んで、そこでもう1回考えるとかディレクションをしないと、それ以上のものにはならないですね。 RIOW ARAI: サンプリングそのままじゃなくて、そこからチョップするなりしてオリジナルな作品にしたいわけだし。そこが難しいよね。ネタが良過ぎると他の音が入る余地がなかったりもするし。

DJ DUCT: それだけで何もいらないっていうループの美学みたいなものですよね。 RIOW ARAI: 僕がやってたのはどっちかというと、ちょっとカッコ悪いビートを再構築しておもしろくするみたいなことかな。ただ元ネタの鳴りみたいなのは、いいに越したことはないけど。

DJ DUCT: それはやっぱり自然とそういうものを耳が選ぶんじゃないですか。チョップした時にこれは使えるなとか。 RIOW ARAI: レコードを聴いてる時にあがるネタと作ってる時にあがるネタは違ったりするね。今回のアルバムは、ループだけ作って、構成は、あらかじめ組み立てずにリアルタイムミックスでやりました。

DJ DUCT: 何テイクもやったりしたんですか? RIOW ARAI: そこはBAKAYALOWだから(笑)、1回しかやらなかった。

DJ DUCT: 何回もやると意味合いが変わってしまうということですか。 RIOW ARAI: もちろん。失敗したら録り直せばいいくらいの気持ちだけど、1回しかやらないって決めた方が集中力が高まるし、何回もやればいいってものでもないので。

DJ DUCT: スクラッチの録音も結局そうですからね。 RIOW ARAI: 結局2テイク以降は1テイク目をふまえてという感じになるし、気持ちが新鮮なうちに録りたいというのもあって。

DJ DUCT: それはよくわかります。 RIOW ARAI: 録音は、長さも決めずに感覚的に終わりと思うとこまでやって、あとで長過ぎたり、直したいところは波形編集という流れで。構成も今までは頭で考えたりしてた感じだけど、今回はライブ感覚でやろうっていうのもありました。あと1拍とかミュートするとかエフェクトのオンオフとかプログラミングだと面倒なこともあるので、そういったことを積極的にやったりとか。

DJ DUCT: あと今回もマスタリングは自分でやりましたよね? RIOW ARAI: ですね。いつもだったらトータルで何かかけるところなんだけど、かけたら違和感があったのでかけずに、今回は、初めて音が小さいままでいいやと思いました。

DJ DUCT: 逆にダイナミクスはあると思うし、だからこそ大きい音で聴きたいっていうのはありますね。 RIOW ARAI: あと音数少なくて隙間がある感じは"mind edit"のころに近いかもしれないけど、10年以上経ってまたそこに戻ったというより、そこは似て非なるものというか、自分の年齢とか含めて今やりたいことが結果的これだったってということかな。

DJ DUCT: なるべくして、こういう音像になったんでしょうね。