アルバム部門は他部門とことなり編集部で候補を持ち寄り20枚を選定しています。メディアとしての公平性は残しつつ、それぞれスタッフの好みも反映されていることご容赦ください。
 毎年思うことは、選定を始め振り返ると不作の年なんてないということです。20枚に絞るのが本当に難しい。同時に素晴らしい作品も消費されるスピードが早いようにも思います。それはメディアの責任かもしれせんが、ゆっくり解釈する時間もっと必要なのかもしれません。そういうった点では、ありふれたこの企画もみなさんのお役に立てるのではないでしょうか?
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Text:編集部

A Tribe Called Quest / We got it from Here… Thank You 4 Your service

Epic

まさかトライブの新作が聴けるなんて…。そう誰もが思ったことだろう。90年代、ヒップホップシーンの歴史を大きく動かした伝説のグループA Tribe Called Questのじつに18年ぶりの新作だ。2016年3月にMCのPhifeが他界してしまったため、オリジナルメンバーによるATCQとして本当に最後のアルバムとなる。なお、本アルバムは全米チャート初登場1位を獲得。

Convextion / 2845

a.r.t.less

フューチャークラシック。オールドスクール。Convextionによる10年ぶりのアルバムは、これらの言葉が並びそうな90年代のデトロイトテクノを彷彿とさせるリバイバルサウンドだ。90年代中盤から活躍しているベテラン、Gerard HansonによるプロジェクトConvextion。前述した90’sのエッセンスに洗練されたミニマルなディープさが加わり面白い。気になって前作も視聴してみたら、今出しても評価されそうなほどのクオリティ。この人すごいです!

DJ Shadow / The Mountain Will Fall

Appeal Records

最近の作品はあまりよい評価を得られていなかったが今度はどうだろう? 結果は良かった(だからここに載せているわけだが)。ロック色が強かった近年の作品に比べ、硬派はヒップホップ、ブレイクビーツを提示。Mo' Waxから96年のデビュー作『Endtroducing.....』から20年、アブストラクトヒップホップを感じられる点も原点回帰とも見て取れる。NASのレーベルからリリースするのにも驚かされた。

Joaquin Joe Claussell/Joaquin Joe Claussell presents - Thank You Universe

Sacred Rhythm Music

アルバムを聴いたきっかけは『EMMA HOUSE 20』に収録されていた「Most Beautiful」にひどく感動したからだ。こんなボーカルハウスが聴きたかった。そう思って手に取ったのが本作だ。8年ぶりのオリジナルアルバムだがJoeのベストアルバム的な内容。過去の楽曲に新たに手を加えたものが並ぶ。新曲も聴きたかった部分もあるが、それを差し引いても素晴らしい内容。すべてのものに感謝するタイトルが物語るとおり、愛そのものの音楽。

Justice / Women

Ed Banger record

「おかえり、Justice」。エレクトロという言葉をすっかり聞かなくなった今だからこそ、Justiceが聴きたかった。アルバム冒頭から懐かしさと同時に、彼らはエレクトロにニューディスコやファンクの要素を入れて進化させたんだなと思った。それはボーカルをフィーチャーしている曲が多かったり、ベースラインのグルーヴ感だったり。それは以前も見受けられたから、彼らはきっとオールドスクールなものが好きなんだと思う。このアルバムはディスコ系のDJのレコードバックにこっそり入れたい。きっと喜んでくれるから。

Kendrick Lamar / untitled unmastered.

Top Dawg Entertainment

未発表音源なのにこのクオリティー。2016年3月に突如リリースされた本作。2月にはアルバム『To Pimp A Butterfly』でグラミー賞 5 冠を獲得したばかりの出来事だった。『無題』と付けられた新作も『To Pimp A Butterfly』のようにジャズやファンクの要素をヒップホップを合わせている。ブレイクビーツに乗るラップもかっこいいけど、生演奏に乗るラップが今っぽい。彼のラップもひとつの楽器のように自由に音の間を縫っていく様は流石!

KING / We Are King

King Creative LLC

Princeのお気に入りで自身のライブの前座に抜擢する女性ボーカル3人組がKING。ドリーミーソウル、ドリーミーポップとでもいうようなシンセとボーカル。シリアスな作品もいいけれど、彼女たちの音楽のように肩の力がついつい抜けてしまうリラックスなムード漂う作品もよい。この小洒落感がなかなか無かったのだろう。しかしなぜ女性なのにKINGと付けたのだろう? あっ、フレディー・マーキュリーのQUEENがすでにいたか。

Mark Pritchard / Under The Sun

Warp Records

大ベテランの処女作。正確にいうと“本人名義としては初アルバム”になるのだが。1997年にアンビエントテクノの名盤『76:14』を生んだGlobal Communication。その一人がMark Pritchard。本作は、エレクトロニック、フォーク、アンビエントなど、彼がこれまで吸収した音楽すべてをこの作品に詰め込んだよう思えるほど壮大だ。太陽の下というタイトルやMVの視覚的情報からかもしれないが、地球という星の営みを音楽にしたような美しさもある。

Nicolas Jaar / Sirens

Other People

今から約5年前、デビュー作『Space Is Only Noise』で国内外の年間ベストを総なめにした天才がNicolas Jaar。物憂げなサウンドとファルセットボイスは今作でも健在。作品冒頭のKilling Timeはガラスが砕ける音がサンプリングされピアノの音とともに使用される美しい曲。いつ聴いても官能的極まりない。音の情景を思い描けるほど豊かな表現力はアルバムというパッケージでこそ聴いてほしい作品だ。

Radiohead / A Moon Shaped Pool

XL Recordings

封を開けてアルバムを聴くときのドキドキ感をわたしは忘れてしまった。この業界に長くいると不感症になってしまう。ただRadioheadの作品は、未だにドキドキする。それほど彼らは革新的なのだ。前作はダブステップの要素を取り入れた作品だったのに対し、ストリングスを取りれた壮大な作品。しかしDaydreamingはポリリズムも相まって白昼夢そのもの。脳が弛緩してしまうほど、心地いい。

Seiho / Collapse

Leaving Records

そういえば、前作『MERCURY』も2012年のベストアルバムに入れたことを思い出した。しかし、日に日に彼の人気は高まるばかりだ。4年ぶりとなる『Collapse』。意図的に難解に作ったと彼は説明してくれた。それが例えば2020年には解釈され、当たり前の思想や哲学としてなってるように、彼自身も作品を解釈して届け続けるそうだ。タイトルは崩壊を表す。ゼロから始まった彼の音世界が2020年にどうなっているのか楽しみだ。

Shabaka And The Ancestors / Wisdom of Elders

Brownswood Recordings

シャ・バ・カ・ハッ・チン・グス(Shabaka Hutchings)…少し読みにくいなと思ったサックス奏者。彼の名前を初めて聞いたのは、Gilles Petersonの口からだった。Gillesがオススメするだけある(というかBrownswoodからリリースしているのだが)。今作は、Shabaka Hutchingsが長年称賛してきた南アフリカのジャズミュージシャンたちと行ったセッションを記録したもの。しかもたった1日で。近年ジャズシーンが盛り上げっていますが、その中でもとびきりセクシー。

StarRo / Monday

Toy's Factory

グラミー(リミックス部門)にノミネートされた日本人プロデューサー、StarRo。ロサンゼルスを拠点に世界で活躍している、いわば逆輸入的なプロデューサーだ。デビューアルバムとなった本作では、R&Bの甘さや前に出ないビート感にアンビエント・ミュージック的な要素を感じて面白い。以前は音楽活動をしながら会社員としても働いていた彼。それがグラミーノミネートだから、なんて夢があるストーリーだろう。

Steven Julien / Fallen

Apron

デトロイトテクノやハウスって僕たちの好物ですよね。だったらデトロイトサウンドを鳴らす新世代のひとりSteven Julienもこれを機に知ってください(生まれ育ちはウエストロンドン)。ロウなエレクトニックミュージックのオンパレードです。実験的な音も多く使われているところはOmar Sに通ずる部分があります。ちなみにFunkinEvenという名義でFloating Pointsのレーベル、EGLOからデビューしています。

Tonight Will Be Fine / Elephant Island

mule musiq

ディープハウスプロデューサーが作るアコースティックミュージックはスタイリッシュだった。今年設立10周年を迎えたハンブルグの名物レコードショップ兼レーベル、Smallville。そのオーナーであるSteinhoff & Hammoudaから派生したアコースティックプロジェクト、Tonight Will Be Fine。ギターとボーカルをメインに少しのドラム(そのた楽器少々)で構成された楽曲は洗練されたモダンミュージックだ。何を作らせてもセンスいいんですね。

宇多田ヒカル / Fantôme

Virgin Music

彼女の「Come Back To Me」をやたら聴いていた2016年。トラップで使われているドラムパターンに2000年前後のUS R&Bを乗せたニュークラシックのような曲。2009年の曲なのに、やっぱり宇多田はすごいなと思っていたら、8年ぶりのアルバムがリリース。全米チャートにもランクインする快挙も。こういったときに初めて“日本が誇る世界の”という言葉を使っていいように思う。PUNPEEやKOHHといったアーティストと絡んでいるのも嬉しい。

Will Long / Long Trax

Comatonse Recordings

“革新的な”社会で行なわれた平等における試みの失敗の余波の響きを汗まみれのダンスフロアから考察した“という本作。難解なコンセプトがこのレーベルらしいが、とにかくサウンドがミニマルかつリッチだ。ダンスフロアでは機能するミニマルなディープハウスもアルバムとしては退屈になりがちだが、ずっと聴いていられる。もしくは強制的に一音一音を聴かせられているように思う。これは魔法としかいいようがない作品だ。

XTAL / Skygazer

Crue-L

CrystalがXTALと改名(読み方は同じくクリスタル)。デビューアルバムにしてベストアルバムでは?と思うほど名曲揃いの本作。明け方に流れたら泣いてしまいそうなピアノトラック「Heavenly Overtone」、「Break The Dawn」をはじめ、アシッド、バレアリック、シューゲイズ、シティーポップなどなど、すべての曲が表情豊かだ。一貫して共通性を持った作品ではなく個性の集合体。楽曲それぞれが楽しそうに遊ぶ子どもの様だ。

yahyel / Flesh and Blood

Beat Records

えっ、本当に日本人? しかも若いの? と彼らの存在に驚かされた2016年。古今東西のベースミュージックを吸収しミニマルに鳴らすサウンド、スモーキーで渋いボーカルにJames Blakeを初めて聴いたときと印象が重なる。ポップさも相まって世界中のオーバーグラウンド、アンダーグラウンド問わず受け入れられるだろうyahyelという音楽。きっと彼らのようなインターネットが身近にあった世代にとって邦楽、洋楽ってカテゴリー分けはないんでしょうね。

Yussef Kamaal / Black Focus

Brownswood Recordings

「ユセフ・カマール、お前もか!」彼もまたShabaka HutchingsとともにGilles Petersonが惚れ込んだユニットだ(ユセフさんとカマールさん)。ただこちらはクラブジャズ、いわゆる踊れるジャズとしの要素が強い。それはドラムンベースにヒップホップやアフロミュージックを融合させたブロークンビーツの要素を感じられるからだろう。それをジャズとして演奏したら……。聴くまでもなくオシャレだとわかりますね。でも聴いてくださいね。